この記事は日経ビジネス電子版に『副業から複業へ、新たな働き方は広がるか』(3月29日~4月1日、6回)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』4月12日号に掲載するものです。

リモートワークの浸透で、複数の仕事を掛け持ちする「複業」が注目を集めている。単なるサイドジョブと言える「副業」の一歩先を行く働き方は広がるのだろうか。求められるスキルや資質はどんなものなのか。実践している先駆者を取材した。

ビーチの目の前でダンスイベントの企画を話し合う酒匂さん(右)と大杉さん(中)、森河さん(左)

 真っ白な砂浜と透き通った海を背にした沖縄県・石垣島の海辺。コテージとカフェがある「ALOALO BEACH川平」の庭で3月中旬、キャスティング会社ハンディ(東京・渋谷)でプロデューサーの肩書を持つ酒匂紀史さんが、同社社長の大杉陽太さん、地元のダンサーの森河美帆さんとダンスイベントの企画を練っていた。

 酒匂さんは昨年12月まで電通のサラリーマンだった。1998年の入社以降、トヨタ自動車やユーグレナなどのブランド戦略に関わってきたが、昨年導入された個人事業主制度に応募して退職、今年に入り石垣島に移住した。

 今は複数の仕事を掛け持ちする「複業」で生計を立てようとしている。電通が設立した個人事業主制度の新会社、ニューホライズンコレクティブ(NH)と業務委託契約を結び、ブランドコンサルティングなどの仕事を請け負いながら、ハンディの新規事業開発も手掛け始めた。さらにDOKAVENという自らの会社を立ち上げ、ラーメンや飲料などの自社ブランド製品も製作中。リゾートホテルの開業支援もしている。

 「エキサイティングで充実していた」電通を辞めたのはなぜか。退職する際、妻には「ギャンブルや無謀な挑戦ではない。安定して生活するために最もコンサバティブな判断だ」と告げている。

 電通に不満はなく、感謝しているという。定年まで働くつもりだったが、40歳過ぎから「終身雇用はその名の通りの役割を果たせていない」と思い始めた。人生100年時代なのに、60歳前後の定年の先はどうなるのか。自分や家族の人生を考えると、1つの会社にいるのはむしろ不安定かもしれない。そんな価値観が芽生えつつあったときに電通がNH制度を発表したため、手を挙げることにした。

 収入を増やしたかったのではない。家族が安定して楽しく暮らしていくための脱サラだ。NHを含め、ほとんどの仕事がリモートでできると分かり、好きだった石垣島に移住した。

 酒匂さんは収入の柱をいくつかに分散することを意識している。終身雇用という日本独特の仕組みが制度疲労を起こしつつあることに気づき、リスクを先んじて回避しようとしている。

続きを読む 2/4 動機を下げる要因を排除

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