コロナ禍で大打撃を受けた外食業界にあって、焼き肉業態の競争が激しくなっている。大手外食チェーンが新規参入し、新興プレーヤーも出店の手を緩めていない。感染症対策で新しいタイプの店づくりも始まった。サービスも業界勢力図も変わる転機を迎えている。

3月上旬の平日の昼下がり。物語コーポレーションが運営する焼き肉チェーン、焼肉きんぐの郡山朝日店(福島県郡山市)を訪れた。ファミリー層や学生のグループ客で客席の8割ほどが埋まり、従業員が忙しそうに接客に追われている。入り口で見ていると数分ごとに客が入る。ドア越しに中をのぞいた客が「混んでるなあ」とつぶやく声が幾度も耳に入ってきた。
コロナ禍で大打撃を受けた外食業界。テークアウトやデリバリーに強いマクドナルドは好調だが、着席して複数人で食事を楽しむ業態は厳しい。日本フードサービス協会によると、2020年の年間売上高はパブ/居酒屋が19年比で49.5%減、ファミレスは22.4%減、喫茶は31%減となった。その中で焼き肉は10.9%減と踏みとどまった。
●外食業態別の月次売上高の前年同月比伸び率

物語コーポレーションも緊急事態宣言による全直営店の一時休業などで、焼き肉部門の既存店売上高が20年4月に前年同月比73%減、5月も41.5%減となった。それでも6月以降は回復し、7~12月の既存店売上高は前年同期比5.7%伸びた。7~12月期の全社の売上高は344億円と前年同期比9.4%増。営業利益も31億円で同75.3%増えた。ラーメン事業の「丸源」など他業態の既存店が前年を割り込む中、焼き肉が業績を支えている。

コロナ下で好調な焼き肉業界を分析した外食の他業態のプレーヤーは「コロナ禍では食べたいものの目的を決めて来店してもらうことが重要」(ファミレス大手)とみて、特定ジャンルの店舗の開発を急いでいる。しかし大手外食のしゃぶしゃぶチェーンは焼き肉のような勢いはない。今回取材した各社に焼き肉が受け入れられている理由を聞くと、ファストフードとも和食や麺類とも違う、焼き肉だけが持つ長所がコロナで浮かび上がったという答えが返ってきた。
「ホットプレートではお店のようなものが作れない」。各社はこぞってこう語る。ロースターの直火で焼くと味が違う上、家庭で多種類の肉をそろえるにもお金がかかる。コロナで内食が増えたことで、「自宅で作りにくい」料理の典型が焼き肉だと消費者が意識するようになった。

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