新型コロナウイルスの国内での感染拡大から1年、厳しい起業環境が続く。そんな困難な状況下でも信念に突き動かされて一歩を踏み出した起業家たち。彼らは何を思い、どのように困難を乗り切ろうとしているのか。

 シンガポールの政府機関が主催するアジア最大規模のスタートアップコンテスト「Slingshot」。オンライン開催になってアジアの各国から前年の3倍に上る約7500社が応募した2020年の大会が、1社の日本のスタートアップが名を上げる舞台となった。

神谷渉三氏(中央)は、NTTデータ時代の同僚だった安藤高太朗氏(右)と能勢康宏氏(左)とコロナ禍で起業した(写真=吉成 大輔)

 新設された新型コロナウイルス対策へのチャレンジ部門のトップ20社に、設立から半年足らずのI’mbesideyou(アイムビサイドユー、東京・世田谷)が選ばれたのだ。同社が手掛けるのはAI(人工知能)を活用した感情解析技術。「Zoom」などのビデオ会議システムと連携して、動画から対象者の表情や顔の向き、視線、音声などを解析して感情を割り出す仕組みを提供する。オンラインでのコミュニケーションの質を高めるのに役立てる。

 トップ10社入りこそ逃したものの、同社は一気に注目されるようになった。既に家庭教師事業を展開するバンザン(東京・新宿)など教育分野を中心に複数の顧客にサービスを提供済み。アイムビサイドユーの神谷渉三代表は「2月だけで数百万円規模の売り上げがある」と明かす。

周囲からは心配の声ばかり

 「今のタイミングで辞めるの?」「思い切るねえ。大丈夫?」──。

 神谷氏が起業を決心し、勤務していたNTTデータに退職届を出したのは20年春のこと。新型コロナウイルスの感染が国内でも拡大し、先行きが不透明な時期だった。待遇の面でも雇用維持の面でも安定している大企業を辞め、起業という不安定な道に進もうとしていた神谷氏。周囲から聞こえるのはそのリスクを心配する声ばかりだった。それでも決意を変えず6月にアイムビサイドユーを設立したが、「少なからず不安はあった」と神谷氏は振り返る。

 人の働き方や生活様式を大きく変えたコロナ禍。その影響で起業家たちの熱量が衰えたわけではない。むしろ「起業への関心は確実に高まっている」とスタートアップ業界の関係者の多くは口をそろえる。

 例えば起業家が事業アイデアを競うピッチ大会。これまでは東京など大都市で、リアルの場で開催するイベントが中心だったが、コロナ禍でオンラインに移行。結果として、「地方在住の起業家候補生にも門戸が開かれ、ピッチ大会への参加者は2倍以上に増加した」とデロイトトーマツベンチャーサポート(DTVS)の斎藤祐馬社長は話す。Yazawa Venturesの矢澤麻里子代表パートナーも、「コロナ禍を機に生き方を見つめ直した結果、起業を検討する人が増えている」と指摘する。

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