中小零細企業にとってデジタルツールの導入はハードルが高かった。理由は費用だけではない。使いこなすのも容易ではなかった。今、そのハードルが下がっている。便利になったITを導入し、データを生かして成果を上げている街中の経営者を取材した。

おばあちゃんの原宿と呼ばれる東京・巣鴨地蔵通り商店街。「巣鴨で1番のズボン屋」と掲げた洋品店「サン・まつみや」(東京・豊島)の店内には、高齢女性向けのズボンがずらりと並ぶ。向かいの壁にはカラフルなトップス、奥にはコートなどの高価格商品。高齢女性の体形に配慮した幅広い価格帯のバラエティー豊かな服がそろっている。

店頭の大看板が示す通り、サン・まつみやは年齢とともに変わる体形に合わせたズボンの品ぞろえを豊富にし、競合店との違いを出している。この方針を打ち出したのは創業者の次女、尾﨑朋子店長。サン・まつみやの経営にデータ分析を取り入れた。
「こんなに粗利率が低いの?」。家電量販店で販売員として働いたのち、出産を経て店を手伝うようになった2013年。尾﨑氏は家業の決算書を見て驚いた。アパレル業界の一般的な粗利率が50%なのに対し、サン・まつみやは30%程度だったのだ。同時に疑問が湧いた。売価数万円のコートなども扱っており、「高い商品も売れているのに、なんでこんなに低いんだろう」。
だが、疑問を解こうにも手掛かりとなるデータがなく、理由が分からない。気になりつつも、日々の業務に忙殺され、時が流れていった。
転機が訪れたのは18年。地元の信用金庫が主催したセミナーに参加した尾﨑氏は、東京都中小企業振興公社がデータ活用に補助金を出していることを知った。
早速、POS(販売時点情報管理)レジを導入。補助金を活用したため投資額は100万円弱と半分ほどで済んだ。この機器を選んだのは以前に使っていたレジとインターフェースが大きく変わらないためだ。通常の販売業務では、バーコードを読み取って操作するだけ。年配の従業員や、売り場に入ってくれる母親も使いやすい。
レジの作業がスムーズに進む一方、POSは商売を大きく変えた。商品登録の際に価格と仕入れ値を打ち込む仕組みで、商品ごとの粗利や累計の粗利率が一目瞭然となった。データが可視化されると、思わぬ効果も出てくる。「この商品はもっと利益をとってもいいのでは?」といった提案がスタッフから上がるようになった。
サン・まつみやでは、仕入れ値に対して均一の利益率を乗せて価格をつけていた。つまり、近所の競合店で売っている商品も、サン・まつみやでしか売っていない商品も、同様に扱っていたのだ。POSレジ導入と同時に、競合も扱う安価なズボンなどは粗利を少なくして価格で勝負。ほかの店にない百貨店品質の商品は適正利益を乗せた価格にするなどメリハリをつけることができ、粗利率は徐々に上がったという。
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