新型コロナウイルス禍によって、人と人との交流が難しい状況が続いている。打開に向けてデジタル技術を駆使した「もう一人の自分」と言えるアバターの活用が広がり始めた。新たなビジネスが次々と芽吹いている。アバターは「会えない時代」を乗り越える切り札になりそうだ。

<span class="fontBold">バーチャル同人誌即売会では多くの人がアバターで交流</span>
バーチャル同人誌即売会では多くの人がアバターで交流

 1月末の土曜日の昼、記者は自宅のパソコン上で「バーチャル同人誌即売会」のサービスに接続した。黒の軍服風ジャケットをまとった青年のアバターを「分身」として選び、いざ仮想空間に飛び込んだ。

<span class="fontBold">電車に乗って会場に向かう</span>
電車に乗って会場に向かう

 そこにはJRならぬVRマークが記された「NEO代々木駅」が待っていた。駅の地下に階段で降りてホームでしばらく待つと、暗闇の中から列車が走行音とともに滑り込んできた。開いたドアから乗り込むと列車は再び走り出し、暗い車内で「NEO国際展示場」行きを告げるサインが光る。数十秒後、視界が開けて青空に浮かぶ会場が見えた。

<span class="fontBold">アバターにより、店舗探しを楽しめた</span>
アバターにより、店舗探しを楽しめた

 会場では参加者の好みに合わせたアバターたちが歩き回り、近寄るとざわざわと話し声が聞こえる。実際のイベント会場を訪れたような没入感がある。同人誌を販売するブースでは即売会ならではの光景を目にした。「前から気になっていて今日絶対来ようと思っていました」「お話できてうれしいです」。お目当ての同人誌を買いに来たファンの女性のアバターが、作家のアバターとボイスチャットで交流を楽しんでいた。

1000人集まる空間の潜在力

 「販売機能だけのオンラインイベントではすぐに飽きられる。電車に乗る、スロープを歩くなど、無駄とも思える遊びを取り入れることで、実際に会場に来たようなワクワクする臨場感を出せるようにした」。即売会のシステム開発を手掛けたmonoAI technology(モノアイテクノロジー、神戸市)の山下真輝執行役員は開発の裏側を語る。

 この即売会はモノアイのバーチャル空間プラットフォーム「XR CLOUD」をベースに開発した。モノアイは数年前からアバターを使ったバーチャルのイベントシステムを開発していた。コロナ禍で大型会場を使ったイベント開催が難しくなり、非接触型システムへの需要が高まった。これを受け、2020年7月にXR CLOUDの提供を始め、年末にはアプリ版も導入した。

 XR CLOUDは大規模同時接続が強みだ。今回は1つのバーチャル空間で同時に1000人、即売会全体で1.5万人が参加できるようにした。数千~数万人のアバターが同時に接続し、実際にチャットで交流できる。海外も含め、これほど多人数で同時接続を実現できるバーチャル空間は珍しいという。

 それが可能なのはゲームの技術を応用したため。モノアイは多人数がオンラインで参加し、同じ空間でチャットをしながら敵と戦うゲームのシステム開発で培った独自の通信技術を持つ。