小規模販売店に淘汰の波
100年に1度の変革期といわれる自動車産業。それはディーラーも同じだ。2000年に約600万台だった国内メーカーの新車販売台数は、20年は約460万台と2割以上落ち込んだ。サブスクリプション(定額課金)やカーシェアリングなど「所有しない」利用形態も広がっている。
日本自動車販売協会連合会の加盟企業による販売・サービス拠点数は20年に1万5619カ所。4年で400減少した。リーマン・ショック以降、ディーラーの倒産件数は年間100件前後で高止まりしている。多いのが「サブディーラー」と呼ばれる小規模販売店。20年の倒産事例の約65%は負債額5000万円未満の小規模な事業者だった。「地方のサブディーラーを中心に人口減や高齢化などの影響を受けている」(帝国データバンク情報部の担当者)。三菱自動車系のカープラザ富山中央(富山県高岡市)が事業を停止するなど影響は大手にも広がり始めている。
市場環境の変化に加え、地場資本が9割以上を占めるトヨタ系ディーラーには大きな転換点があった。20年5月からの全車種併売化だ。それまでトヨタ系販社では「トヨペット」「ネッツ」「カローラ」などのチャネルごとに扱える車種が決まっていた。車種の垣根がなくなり、同じトヨタ系販売店とも顧客の奪い合いが本格化している。
販売店を選ぶ理由をこれまで以上に問われるようになったが、地域密着を強化していたディーラーにとっては「全車種併売は大歓迎」(ネッツトヨタ富山の笹山社長)。同社では店舗で開催されるイベントを通じて新しい顧客と出会うこともあるほか、過去に店を訪れた学生が入社するなど、成果に手応えを感じているという。
地域密着を突き詰めた果てに「車を売らない販売店」にたどり着いたディーラーもある。滋賀トヨペット(大津市)が大津市の長等商店街で運営する「Boss 百町物語」だ。
わずか10畳ほどの店内には車は1台もなく、お年寄りがソファに座って談笑している。車を持たない住民のため、道の駅で販売する野菜の取り次ぎも行う。散歩の途中で毎週訪れるという80代の男性は「ここへ来たら誰かいる。世間話をするのが楽しみ」と話す。
この場所の目的は「物や車を売ることではなく、地域の人に来てもらい地域を活性化すること」(北村浩之支配人)。コロナ禍前は毎週のように落語会や地元高校生の演奏会といったイベントを開催し商店街を盛り上げてきた。
滋賀トヨペットは64年前に創立した老舗ディーラーだ。「自分たちを育ててくれた大津へ恩返しがしたい」(山中隆太郎社長)と17年に商店街への出店を決めた。初めは「介護車を売りつけに来たんか」といぶかしがられたりもしたが、地道な声掛けによって寂れていた商店街に次第に人が戻り始めた。
商店街主催のイベントでは、自ら県や市の補助金を申請するなど活性化にまい進した結果、北村支配人は商店街振興組合の理事長を務めるまでになった。Boss百町物語には毎月600~1000組が来店し、商店街への来客も3~4倍に増えたという。
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