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20~30代の社員が経営トップを務める大企業発のスタートアップが増えている。大企業側は革新的なビジネスの発掘と若手人材の育成が狙いだ。先行きが見通せない時代に、新たな企業経営のスタンダードとなるか。

三菱地所の社員が立ち上げた「GYYM」を使えば、非月額会員でもジムの空き枠を予約できる

 東京・渋谷のフィットネスジム「ZEROGYM SENDAGAYA」。肩こりや腰痛を解消する独自のトレーニングが、働き盛りの男性会社員らに人気だが、最近女性の割合が増えている。月額会員以外が利用できるようジムの空き枠を掲載するウェブサイト「GYYM(ジーム)」の効果が大きい。

 GYYMを運営するのは、三菱地所の子会社だ。加川洋平氏(34)と橋本龍也氏(32)が同社内で提案、三菱地所の社員とGYYM運営会社の代表取締役を兼任する。

(左)橋本 龍也氏
2011年三菱地所入社。ビル運営や経営企画を経てGYYM代表取締役を兼務。
(右)加川 洋平氏
11年三菱地所入社。広報や商業施設開発を経てGYYM代表兼務。

 GYYMのサイトには暗闇フィットネスやヨガなど女性に人気のジムが並び、仕事帰りや在宅勤務の合間の利用が増えている。2020年1月にサービスを開始し、会員は9000人に近づいている。

 2人が起業したきっかけは18年夏、三菱地所の新事業提案制度に応募したことだ。外部講師の「既存事業の延長線上でなくていい。身近な課題を解決しよう」という助言に従い、案を練った。2人は運動好きだが、忙しくて定期的にジムに通えず月額会員になることにはためらいがあった。「行きたいときに行けるジムがあれば利用は伸びると考えた」(加川氏)

 事業化への自信を深めたのは、約4カ月の実証実験期間だ。20~30代の男女100人弱にインタビューし、ジム利用者の月会費を立て替える一方、利用者からは利用ごとにお金をもらう「仮想サービス」を作ってみた。ウェブサイトもない手作りで、費用は三菱地所が負担した。アイデアの承認後、2人は「新事業創造部」に異動して事業化に専念した。

 三菱地所の社内提案制度は、「第3次ベンチャーブーム」にあたる1999年に始まった。社風の活性化を狙ったものだったが、次第に応募件数が減り、応募者が固定化した。2009年に制度を改めたが、採用案を事業化する人材を社内で公募する仕組みに対し、起案者から不満が出たり、応募者が集まらなかったりしたため、17年に再度改定。起案者が異動して新事業の開発に取り組むようにしたほか、業務時間の10%を「ビジネスモデルの革新」に充ててよいルールを設けるなど環境を整えた。

 この刷新が奏功して、三菱地所ではスタートアップの設立が相次ぐ。リラクゼーション施設運営のMedicha(19年4月設立)、シェアハウス事業のHmlet Japan(同10月)、エレベーターでのコンテンツ配信のspacemotion(同11月)などだ。

日経ビジネス2021年1月11日号 44~48ページより目次