大企業に限らず、販売・製造の現場にAIを導入する事例が増えてきた。職人やベテランの経験と勘こそ頼りだった仕事の領域にも徐々に入り込んでいる。AIを「脅威」と捉える見方もあるが、活用の現場から見えたのはギスギスした関係ではなかった。

 西武池袋本店の紳士服ワイシャツ売り場で11月、1年前には想像できなかった新しい取り組みが始まった。

 「手を少し広げて肩の力を抜いてくださいね。では撮りまーす」

 サイズ展開の細かいワイシャツは、採寸が欠かせない。だが店員が取り出したのはメジャーではなくてスマートフォンだった。

 コロナ禍で、人と人との近距離での接触が敬遠され続けている現状は百貨店でも同じだ。このAI(人工知能)を活用した採寸アプリ「Bodygram(ボディグラム)」を使うことで、非接触での採寸が可能になった。

AIが自動で採寸
写真2枚で全身のサイズを把握
<span class="fontSizeM">AIが自動で採寸<br /><small>写真2枚で全身のサイズを把握</small></span>
西武池袋本店では、紳士服ワイシャツ売り場でボディグラムが採用されている。正面および横の写真を撮れば24カ所のサイズの推定値が出る。セルフモードを使い撮影すれば1人でも計測可能だ(写真=北山 宏一)
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 正面から1枚、横から1枚、たった2枚を撮影して数秒後、ウエストや肩幅、ふくらはぎ周りに至るまで、各所のサイズの推定値がはじき出されていく。

 この細かさは、AIの学習のたまものだ。これまでに集めたデータから、似たようなシルエットを瞬時に導き出す仕組みで、人間の身体は千差万別といえど、AIにはもはや関係なし。「肩幅はこの画像が近い」「おなか回りのふくらみはこの画像に似ている」といった具合で、パーツごとにデータをさばく。ボディグラムの開発者であるマレーシア出身のジン・コー氏は、システム開発に当たって様々な服を着た実に12万人分のデータを集め、現在もその技術は進化を続けている。

 コー氏は2015年、オンラインカスタムオーダーシャツブランドのOriginal Stitch(オリジナルスティッチ)をスタートさせた頃に、ボディグラムのアイデアが浮かんだという。当時はビデオなどを通じて、スタッフがアドバイスをしながら採寸方法を伝えたこともあった。だが、なかなか正確に測るのが難しい。

 無理もない。プロのテーラーですら、同じ部位を複数回測ると値が異なるときもある。人間のやることには、どうしても誤差やブレが出てしまう。

 そのためボディグラムは、「簡単な方法で、誰が測っても同じ値が出る採寸サービス」を目指した。

 西武を訪れた顧客からはその技術の高さに感嘆の声が上がる。店側のメリットも大きい。販売現場にとって採寸は重要なスキルではあるが、場数や経験を積まなければ習得できない。だがボディグラムを使えば「店員の経験の有無にかかわらず採寸が容易にできるため、販売力の底上げにもつながる」と、この仕組みの導入に携わった、そごう・西武の車田裕樹氏は話す。

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