現実空間と仮想のデジタル情報を融合するXR(クロスリアリティー)技術が広く浸透し始めた。製造や保守、研修など幅広い現場で仮想データの立体映像が、今そこにあるかのような臨場感を生む。最新テクノロジーが技術継承、人手不足など難題に悩む現場に新たな息吹をもたらしている。

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 高知県東部の香美市にある有限会社宮村鉄工。作業場で職人がH形鋼に黙々と溶接加工を施している。一見すると昔ながらの作業風景だが、スキーのゴーグルを分厚くしたようなスマートグラスを装着している。

 職人の眼前に広がるのは現実空間と3次元空間が混然一体となった世界だ。実際に存在する加工前の鉄骨に、部材を取り付けた完成形の鉄骨を表した3次元のコンピューターグラフィックス(CG)を、シースルー型スクリーンに重なるように投映している。「プレートを鉄骨の端から10cmの場所に置いて溶接してください」。CGの部品が表示された部分に、指示通りに本物の部品を取り付けて溶接し、寸法通りになったかどうかを測るところまで作業工程を支援する。

 3DCGの鉄骨には「触る」こともできる。数百kgの重さの鉄骨でも3次元映像なら指先でつまんでひっくり返せば裏側にどんな加工を施せばいいのかも即座に分かる。職人は紙の図面を何度も見ずに済み、鋼材に線も引きやすくなる。3D画像で部品の取り付け位置や完成品を見ながら加工できる。

(イラスト=ゴーグル部分:freepick、写真=PIXTA)
(イラスト=ゴーグル部分:freepick、写真=PIXTA)
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 この技術は、MR(複合現実、ミックスドリアリティー)と呼ばれるものだ。

 現実の風景に3DのCGを重ね、医療現場で手術前に執刀のシミュレーションをしたり、製造業で完成形を確認しながら作業を進めたりする使い方が広がり始めている。

 よく似た技術にAR(拡張現実、オーグメンテッドリアリティー)がある。位置情報を組み合わせてスマホの画面上にモンスターを出現させるゲーム「ポケモンGO」が2016年に登場して世の中に広まった。現実の風景に簡単な絵や文字を加え、視覚的に映えるようにしたり、情報を表示したりする。

 ARが進化したのがMR。米マイクロソフトやキヤノンなどが、スマートグラスからソフトウエアまでまとめたソリューションを提供し始めたことにより、ここ2~3年で幅広い分野に使えるめどが立った。産業界ではこれらの技術を総称するXR(クロスリアリティー)という言葉が浸透し、作業の効率を引き上げたり、イノベーションにつなげたりしようと模索が始まっている。

<span class="fontBold">複合現実製作所の山﨑健生社長。「XR技術を中小企業にも使いやすくする」と話す</span>
複合現実製作所の山﨑健生社長。「XR技術を中小企業にも使いやすくする」と話す

 宮村鉄工が期待するのは生産性向上や技術の伝承だ。同社と共同で建築鉄骨向け作業支援ソリューションを開発したNTTドコモ子会社、複合現実製作所の山﨑健生社長は「熟練していない溶接工の方でも、鉄骨に付ける部材の個数や位置、上下や穴の箇所が合っているかを確認しながら作業してもらえる」と話す。

 現場では、用途に応じて仕様を作り込んでいく必要がある。宮村鉄工で問題になったのは鉄骨のたわみだった。鉄骨の図面をCGで3次元化すると、まっすぐな線になる。しかし、現実の鉄骨はCGとは異なり、「床に置くと、重さによってたわんで曲線がつき、CGと完全一致しない」(山﨑氏)。実物とCGのずれを最小限に抑える補正技術を開発し、ソフトウエアに組み込んだ。

 鉄工製品はミスをして出荷すると現場で調整がきかず、再出荷となる。このソリューションを利用する顧客からは「手戻りが目に見えて減った」との声が複合現実製作所の山﨑氏に届いた。宮村鉄工社員は「職人の補助ツールとなり、仲間や業者に迷惑をかけたり、怒られたりという心理的不安も軽減できる」と評価している。

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