ソニー参入の真意

 ソニー本体がドローンの製造とサービスに参入し、21年春に独自開発の機体を発売すると発表したのだ。映像制作向けからスタートし、幅広い分野の産業用の機体に展開するとみられる。

 事業を率いるのは、20年初めに発表した自動運転機能を搭載した電気自動車(EV)の試作車「VISION-S」を統括するAIロボティクスビジネス担当の川西泉執行役員。そのことからも、ソニーの本気度がうかがえる。

<span class="fontBold">テラドローンは、ドローン管制システム(UTM)で世界標準を狙っている</span>
テラドローンは、ドローン管制システム(UTM)で世界標準を狙っている

 「ドローンが普及すれば、パソコンのようにすぐにコモディティー化する」(業界関係者)という見方が強かった。だが、川西氏の見方は異なる。「ドローンが様々な現場で使われ始めたことで、産業用途では想定していた以上の高度な飛行性能と、先進的な画像解析やセンシングの技術が必要であることが分かった。多くの保有技術を生かして付加価値の高い製品で勝負できると判断した。世界市場で存在感を発揮したい」

 ドローンを巡る情報セキュリティー問題もソニーの参入を促した。ホビー用を含むドローンの世界シェア7割を占めるとされる最大手メーカー、中国のDJIは、低価格と安定した性能を武器に市場を拡大してきた。ところが米国防総省が安全保障上の観点から、政府機関や公共サービスを手掛ける企業などに中国製ドローンを使用しないように求めている。

 日本でも9月、政府機関が重要業務に使用するドローンについて、情報漏洩や乗っ取りといったサイバーセキュリティー上のリスクの低いものに置き換えるという関係省庁の申し合わせが公表された。ソニーはドローンを国内工場で生産する予定で、「情報セキュリティーの技術でも強みが出せる」(川西氏)という。

 社会の隅々にドローンが浸透する時代が、そこまでやってきている。プライバシー保護や安全・安心の確保など技術や制度の制約以上に「ドローンに対する社会的受容性を醸成する方がハードルが高い」(みずほ情報総研の西村氏)との見方もある。社会課題の解決と産業振興の両面でドローンが日本の救世主となるために、クリアすべき課題は少なくない。

INTERVIEW
テラドローン徳重徹社長に聞く
スピードあれば日本企業にも勝機

<span class="fontBold">徳重氏は、電動バイク事業を手掛けるテラモーターズと並行して、2016年にテラドローンを設立した</span>(写真=菊池 一郎)
徳重氏は、電動バイク事業を手掛けるテラモーターズと並行して、2016年にテラドローンを設立した(写真=菊池 一郎)

 ドローンを使うことで大幅な効率化やコスト削減ができる産業分野は極めて広い。2050年にはドローンを用いたソリューション事業だけで、世界で35兆~40兆円の市場が開けるとの予測もある。

 ドローン・アズ・ア・サービス(DaaS)で世界トップの座を確立したい。現在約20億円の売上高は、保守的に見積もっても数年後に150億円を突破するはずだ。

 ドローンビジネスの競争力を左右するのはICTだと考える人が多いが、私は現場力だと思っている。工場や送電線、土木工事、セキュリティー関連施設など、現場ごとの多様な業務、技術や規則を深く理解し、個々のニーズに合った機体や解析技術を提供しなければ成長は見込めない。こうした現場を文字通り泥にまみれて回ってきたのが、当社の強みになっている。

 現場に密着し、技術を擦り合わせるのは日本人の得意とするところ。モーターや制御技術も先端を行く。ドローン産業は、これからの日本が世界の先陣を切れる成長分野だ。ただ、それを実現する上で、日本に欠けているのはスピードだ。

 当社は昨年、ドローン運用の規制が比較的緩いインドネシアで石油パイプラインの監視業務を受注した。こうした地域で積んだ経験を生かし、先進各国が規制緩和したタイミングで一気に市場参入する「逆タイムマシン経営」を目指している。

 世界には優れた技術と知見を持つドローンベンチャーがいくつもある。調査会社が作成した企業リストの中から、有望企業に片っ端から電話をかけ、何度もトップを訪ね、同じ夢を追いかけようと口説き、6社にグループに加わってもらった。新型コロナウイルスの流行前は、世界各地を1周する海外出張を年間に16回もしていた。

 当社設立直後の16年に、ドローン管制システム(UTM)の先駆企業のUnifly(ベルギー)に5億円を投じて筆頭株主になった。ベンチャーキャピタルからは(むちゃだと)叱られたが、UTMで世界標準になれば、利用料収入に加え、あらゆるドローンの運航データが手に入る。そこから次の事業を生み出したい。(談)

日経ビジネス2020年12月7日号 46~50ページより目次

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