世界で広がるESG(環境・社会・企業統治)経営。投資家からの要求も強まっている。日本企業の中で早くから取り組んできたのが花王と味の素の2社だ。両社のトップがESG経営の要諦を語った。(7月15日開催の日経ビジネスLIVEを再構成)

花王も味の素も、日本の企業の中で早くからESGに取り組んできました。なぜESGに力を入れる必要があると考えたのでしょうか。

澤田道隆・花王社長(以下、澤田氏):我々は2019年9月にESG経営に大きくかじを切ることを宣言しました。昨今の変化に対応して生き残っていくためには、やはりESGがキーワードになるのではないかと考えたからです。

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花王
澤田道隆社長
1955年生まれ。81年大阪大学大学院工学研究科修了後、花王石鹸(現花王)に入社。一貫して研究開発部門を歩む。2012年6月から現職。21年1月に会長就任予定。(写真=陶山 勉)

花王のESGのポイント

  1.  ESGをコストではなく投資と捉え、長期的な価値向上のために取り込む
  2.  グローバルな視点で感度よく捉える。ESG部門のトップには米国人(デイブ・マンツ氏)を起用
  3.  清潔、美、健康、心の美を追求する

 取り組みの特徴は3つあります。1つ目は、ESGをコストではなくて投資として捉え、長期的な企業価値向上のために取り込む「攻め」のESGであること。2つ目は、グローバルな視点で感度よく捉えようと考え、ESG部門のトップを米国人にしたこと。3つ目は、花王らしい活動にするため、清潔、美、健康、それらに加え、企業理念のど真ん中にある「正しい道をいく」という心の美を追求すると位置づけたことです。

西井孝明・味の素社長(以下、西井氏):我々も20年2月に、30年に向けた新しい中期経営計画を発表し、将来に向けたビジョンを10年ぶりに更新しました。(世界での顧客)10億人ほどの健康寿命延伸に貢献したいという願いから、「アミノ酸の働きで、世界の健康寿命を延ばすことに貢献する」とし、さらに、「事業を成長させながら環境負荷を50%削減する」ことを掲げました。味の素は110年超の歴史がありますが、社会価値という観点でビジョンを掲げたのは今年が初めてだと思います。

<span class="fontSizeM textColRed">味の素</span><br><span class="fontSizeL">西井孝明</span><span class="fontSizeM">社長</span>
味の素
西井孝明社長
1959年生まれ。82年同志社大学文学部卒業後、味の素に入社。営業やマーケティング、人事などを担当。2013年ブラジル味の素社長に就任。15年6月から現職。(写真=的野 弘路)

味の素が中期経営計画で掲げるビジョン

  1.  アミノ酸の働きで、世界の健康寿命を延ばすことに貢献する
  2.  事業を成長させながら環境負荷を50%削減する

 背景には、15年9月に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)があります。ESGは、SDGsへの貢献について投資家と対話するための手段なんです。自分たちの活動を、E(環境)とS(社会)、G(企業統治)という観点で透明度を上げて投資家に対して説明する。あるいは、ビジョンを具体的に共有できるようにしていく。そのための経営の道しるべという位置付けです。

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