ただ、難易度などで差がある様々な民間試験を同列に扱って公平な判定を下せるのかといった問題点がかねて指摘されていた。何より、居住地や経済環境によって受験機会が制約されてしまうことが最大の問題だった。
「身の丈に合わせて頑張って」。19年10月、萩生田光一文部科学相がテレビ番組で発した「失言」によって問題点がクローズアップされ、翌月には導入延期が決まった。「制度として無理があった」(高校教員)ことを萩生田文科相の発言が端的に示してしまった。
国語と数学の試験に記述式で解答する問題を盛り込む計画も19年12月に見送りが決まった。ベネッセグループが大学生アルバイトを活用して採点業務を担うという点で「利益相反だ」「アルバイトが正確に採点できるのか」と批判が噴出したことが主な要因だ。
共通テストの初年度の受験生となる現在の高校3年生は、18年の高校入学時から新テストに向けた準備を進めてきた。改革の2本柱が頓挫して準備が無駄になった高校生もいるだろう。新たに導入する「主体性評価」の基準がいまだ明確でないという問題もある。その中でも最善を尽くすしかない。
新型コロナの感染拡大という第2の混乱が「教育格差をより鮮明にした」。こう話すのは、東京大学に毎年数十人の合格者を送り込む首都圏のとある私立高校の教員・A氏だ。
この高校も3学期末は休校となり、4月からはオンライン授業に移行した。ただ、高校2年生までにほとんどの学習項目を学びきる、いわゆる「先取り教育」を実施しており、最後の1年間は入試に向けた演習が中心だ。「学習習慣が身に付いていれば、演習を進める上では学校よりも自宅の方が通学時間などもなく効率的」(A氏)とみる。
オンライン授業では、生徒1人に1台配布していたタブレットを利用。ハード面の追加がほとんど必要なく、円滑に実施できたという。しかし、全国で見ればデジタル教材の活用や双方向型のオンライン授業を実現できた公立高校は約半数にとどまる。情報端末や通信機器の配備が遅れている地域もあるためだ。
高3生の教育格差が鮮明に
さらに、大学の進学実績を重視する上位校の場合、文化祭や部活動、修学旅行などといった学校生活を彩る行事なども「2年生のうちに楽しみきって、3年生は受験モードに切り替わる」(A氏)。コロナ禍で私立と公立、また進学校と中堅校の差が表れやすい状況になった。日本財団が5月、全国の17~19歳の男女1000人を対象に実施した調査によると、6割弱が「休校措置で教育格差を感じることがある」と答えた。
模擬試験が相次いで中止になるなど、コロナ禍で志望校選びも難しくなった。駿台教育研究所の石原氏は「上位層は強気なまま、ボリュームゾーンの学生は弱気の志望校設定になっている。実力に合った志望校を見極めるタイミングが例年より遅くなっている」と話す。
その石原氏は「地元志向が加速する」とみる。「都市部の大学は思うように対面授業を再開できていないが、地方大学は施設に余裕があり、対面授業を再開できているところが多い。オンライン授業を受けるにも、通信環境は下宿先より自宅の方が良い」(石原氏)というのが理由だ。経済環境の悪化で、一人暮らしさせる金銭的余裕がなくなっている家庭も一定数あるだろう。
高校3年生の大学進学への意欲は衰えていない。21年1月の共通テストの出願者数は53万5244人。最後のセンター試験に比べて2万2455人減ったとはいえ、現役生の出願者は18歳人口の減少幅ほどには減っていない。新たな対策が必要になる入試制度の変更を見越し、今春に浪人を選択しなかった受験生が多かったのが減少の要因だ。
もともと大学進学率は右肩上がりで上昇してきた。それに加えてコロナ禍で受験の先行きが不透明な中、本来は共通テストの受験が不要な一部の私大志望者も、安全策として共通テストを受験しておく傾向があるようだ。
Powered by リゾーム?