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2020年の国内の粗鋼生産量は半世紀ぶりの低水準にとどまりそうだ。製造業不況直撃で鉄鋼各社は業績不振に苦しむ。能力削減だけで展望は開けない。高付加価値品シフト、DXによる生産性改革など復活に向けた取り組みが始まっている。

日本製鉄は東日本製鉄所鹿島地区の高炉1基の操業を止めた(左)。JFEスチールの西日本製鉄所福山地区の転炉設備(右)

 太平洋に面する鹿島臨海工業地帯。近隣の産業の発展を支えてきた日本製鉄の東日本製鉄所鹿島地区(茨城県鹿嶋市)の第1高炉は、現在稼働していない。真っ赤な銑鉄で満たされてきた高炉は冷えて空っぽになっている。閉鎖を決めた瀬戸内製鉄所呉地区(広島県呉市)を入れると、日鉄は国内の高炉15基中6基を止めて粗鋼生産能力は一時3割減った。リーマン・ショック時を上回る需要減に見舞われている。

 日鉄の橋本英二社長は覚悟を決めている。「(日本の鉄鋼産業は)平成の30年余りの間に3000万トン減った内需を輸出でカバーし、粗鋼生産量1億トンを維持してきた。中国がいずれ輸出を増やせば日本からの輸出は増やせない。1億トンに戻ることはない」

 JFEホールディングス(HD)傘下のJFEスチールも主力の西日本製鉄所で2基の高炉を一時休止。5月から全社員1万5000人の「一時帰休」も実施している。神奈川県川崎市の製鉄所の高炉1基を2023年度をめどに休止することも決めた。

 減産しなければならないのは、鉄の需要が減っているからだ。少子高齢化による構造的な需要減に新型コロナウイルスによる消費減退、企業の生産活動の停滞が追い打ちをかける。経済産業省によると、20年の粗鋼生産量は前年比17%減の8217万トンとなり、09年の8753万トンを下回り51年ぶりの低水準に落ち込む見通しだ。

 高度経済成長期に「鉄は国家なり」の言葉を体現し、自動車や造船、プラント、化学など重厚長大産業の発展をけん引した鉄鋼産業。1973年の国内粗鋼生産量は約1億2000万トンで、当時の世界生産の約2割に達した。

 その後も国内鉄鋼は幾多の危機から復活してきた。需要減に苦しんだバブル経済崩壊後は人員と過剰設備、負債を減らし長期低迷から脱出。2002年に日本鋼管(NKK)と川崎製鉄が統合してJFEHD、12年に新日本製鉄と住友金属が合併して新日鉄住金(現日本製鉄)が誕生するなど過当競争を再編によって切り抜けてきた。

 しかし、韓国との競争激化、中国鉄鋼産業の巨大化で国内鉄鋼メーカーの国際競争力の下落に歯止めが利かない。コロナショックの需要減を受け日鉄、JFEHD、神戸製鋼所の鉄鋼大手3社の21年3月期連結業績見通しは赤字。かつての隆盛は影を潜め、「鉄はオワコン」となる瀬戸際に立たされている。

 活路はあるのか。規模が物を言う汎用品は中国勢と勝負にならない。技術力を生かしたソリューション提案、高付加価値品へのシフトがカギとなる。

日経ビジネス2020年11月16日号 44~48ページより目次