郊外の商業施設で需要総取り

 8月には「ウィズコロナ仕様」をうたう瀬谷区の戸建て住宅の販売を開始。コロナ前から設計に入っていたが、6月に消費者へのアンケートを取り、その意見を反映させた。玄関を入ってすぐのところに手洗い台を設置。これまで家事を重視していたリビングのカウンターは、子どもの様子を見ながらテレワークができるスペースへと変えた。

 9月には、瀬谷区のさらに郊外に位置するゆめが丘駅(同市泉区)前に大規模商業施設を建設することを決めた。想定するのは買い物客だけではない。相鉄はシェアオフィスの併設を検討中だ。テレワークが定着するなか、自宅以外のワークスペースを沿線に求める声が高まっているからだ。「商業施設との組み合わせによって沿線内の移動需要を生み出し、外食や買い物などの消費につなげる。そのすべてをグループで提供したい」(山城氏)

<span class="fontBold">東武鉄道は団地の建て替え事業で大型マンションの分譲が相次ぐ独協大学前駅(埼玉県草加市)の近くにシェアオフィスを開設した</span>
東武鉄道は団地の建て替え事業で大型マンションの分譲が相次ぐ独協大学前駅(埼玉県草加市)の近くにシェアオフィスを開設した
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 6月に15席前後のシェアオフィスを2駅にオープンさせた東武鉄道。尾形浩沿線開発部長は「シェアオフィスを作れば、鉄道の利用をさらに減らすことになるかもしれない」と認める。それでも、「住みやすさを高めて沿線に住み続けてもらい、グループのサービスで収益を得る。ライフタイム全体で提供する価値で勝負する考え方に切り替えなければならない」と言い切る。

 移動を含めた人の生活全体に価値を提供する企業への転換を図る面でも、スマホを使った利用者との接点づくりは不可欠になりそうだ。例えば小田急電鉄は、乗り放題チケットを購入できるアプリで、飲食店を定額で利用できるチケットや、沿線の観光施設のフリーパスも購入できるようにしている。東急は電車・バスの乗り放題と、飲食や映画観賞、レンタサイクルを組み合わせたサブスクリプション(定額)サービスを検討してきた。

郊外派も都心派も

 大東建託賃貸未来研究所の9月の調査によれば、「コロナ後に郊外への移住を考え始めた」という人が8.9%いる一方、「都心への移住を考え始めた」という人も7%に上った。

 同研究所の所長で麗沢大学客員准教授の宗健氏は「都心へ通勤せざるを得ない業種の人が混雑する電車を避けたいと考えているのだろう」と分析。そのうえで「郊外への移住にしろ、都心への移住にしろ、いずれにしても通勤需要は減ることになる」と話す。

 コロナ後に現れた郊外人気の兆しにすがって絶体絶命のピンチから抜け出そうともがく鉄道各社だが、社内からは「ダウンサイジングしなければ事業を持続できない」と悲鳴が上がる。

 大都市圏であっても駅の無人化や運行本数の削減といった利便性の低下に手を着けざるを得なくなるまでに残された時間は短い。鉄道を整備して乗客を待つ姿勢からの変革を本気で、スピード感を持って進めなければ、路線の廃止という大なたまで振るうことになるかもしれない。