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最高益を更新し、好調を維持していた総合商社各社に「冬の時代」が訪れている。コロナ禍で業績は急落。バフェット氏は出資したが、課題が浮かび上がってきた。「人が資産」といわれる商社は、多様な人材を生かし、厳しい時代を乗り切れるか。

(写真=AP/アフロ)

 著名投資家のウォーレン・バフェット氏が率いる米バークシャー・ハザウェイは8月31日、日本の大手総合商社5社に5%超を出資したと発表した。日本の上場企業への本格的な投資は初めてとみられる。「賢人」バフェット氏の出資が伝わると、5社の株価は大きく上昇。伊藤忠商事の鈴木善久社長は、「商社株に世界有数の投資家が関心を示したことは明るいニュース。業界活性化の起爆剤になる」と歓迎した。

 総合商社のPBR(株価純資産倍率)は伊藤忠を除き、「解散価値」といわれる1倍を割り込んでおり、割安とされてきた。今回の出資についてバフェット氏は「将来、互いに利益をもたらす機会があることを望む」との声明を出した。

 ただ、コロナ禍は、最高益が続き見えづらくなっていた総合商社の課題を浮き彫りにしている。

 総合商社は特定の製品や技術に依拠しないビジネスであることから、自ら「人が資産」であることを強調してきた。一方で、世界で事業を展開しているものの、経営や働き方は「日本的」と指摘されることもある。バフェット氏をはじめとする市場の期待に応えるには、より多様な人材が活躍し、新しい価値を生み出すことが不可欠だ。各社も「人が資産」を高い次元で実践しようと動き始めている。

 メキシコの人事部門から米ニューヨークへ、中国のライフサイエンス部門からオーストラリアへ、韓国の金属部門から日本、そして米ヒューストンへ。これらはすべて、住友商事の現地法人が採用した外国籍人材の異動だ。日本と海外の橋渡しを担ってきた総合商社は、代表的なグローバル企業というイメージがあるが、実は現地法人間の人事異動は珍しい。ビジネスの現場は多国籍でも、人事は東京中心だった。

 そんな人事制度の改革に挑んでいるのが、住友商事グローバル人材マネジメント部副部長の楊方(ヤン・ファン)氏である。中国出身で、2008年に上海住友商事に入社後、17年に東京本社へ出向してきた。

住友商事の楊方氏は中国の現地法人での採用。現在は東京の本社でグローバルな人事制度の改革に挑む

 現在、住友商事の海外拠点は60カ国・地域以上、110超に上り、収益(売上高に相当)の海外比率は2010年3月期(米国会計基準)の45.9%から、20年3月期(国際会計基準)には56.4%と高まっている。

 海外事業の拡大に伴い、日本人だけでは各ポジションに適切な人材を充てることが難しくなっている。数年ごとに日本人駐在員が入れ替わることに現地法人の社員がストレスを抱えている現状もある。海外拠点の組織活性化、人材採用、海外で働く人材のモチベーションアップが経営の課題になっていた。

 そこで楊氏らグローバル人材マネジメント部は19年10月、海外人材の異動に関する共通ルールGlobal Mobility Policy(GMP)を制定した。

 GMPは、海外転勤時の処遇やフリンジ・ベネフィット(給与以外の福利厚生的な経済的利益)を定めた共通ルールだ。従来はルールがなく、会社と異動対象人材の個別交渉となっていた。

日本の人事制度は特殊

 そもそも現地法人で採用する人材については、別の海外拠点に異動する前提がなく雇用されている。採用された国以外で働くといえば、日本の本社での研修で1~2年ほどやってくるというケースがほとんど。しかしGMPができたことで、「海外の拠点同士で人材が行き来してよい」という考えがグループに広がり、交流が活性化してきている。

 楊氏は「日本の人事制度は世界から見ても特殊」と話す。実際、5大総合商社の取締役や執行役員を見渡しても、外国人は三井物産の社外取締役2人などごくわずか。残りは日本人で固められている。総合商社は、日本中心主義から抜け出せていないように見える。

 楊氏は「外国籍人材という概念がなくなり、国籍も性別も年齢も関係なく、知恵と力を総動員できれば、最高の仕事ができる」と語る。まずは、自分が東京で実績を残し、パイオニアになる意気込みだ。

日経ビジネス2020年9月28日号 44~48ページより目次