コロナ禍で2021年夏へと1年間延期された東京五輪が中止となるリスクがくすぶっている。悪夢が現実となったとき、日本経済はどの程度の損失を被るのか。五輪関係者が喧伝(けんでん)してきたバラ色の経済効果を検証し、実害を見極める。

2020年東京五輪・パラリンピックの1年延期が決まって9月末で半年となる。この間、新型コロナウイルスの猛威は収まらず、ワクチンの開発・量産のめども立っていない。果たして21年夏に東京で五輪を開催できるのか。
国際オリンピック委員会(IOC)のジョン・コーツ調整委員長が9月7日、「新型コロナの状況にかかわらず、開催するだろう」と仏メディアに述べた2日後の9日、バッハIOC会長は記者会見で「状況は日に日に変わっている」と発言した。IOC内で方針が揺れていることをうかがわせる。
IOCが開催可否を判断へ
IOCは早ければ20年10月に、遅くとも21年春までに開催の可否を決定する見通しだ。東京五輪の有無は国民的な関心が高いだけでなく、企業の業績も左右しかねない。中止した場合に日本経済が被る損失を、今から見極めておく必要がある。
中止に伴う経済損失は、五輪の開催によって本来得られたはずの経済効果の毀損分と言える。最も広く知られる経済効果の予測値は東京都オリンピック・パラリンピック準備局がはじき出した約32兆円だろう。東京都はバラ色のような試算を提示し、五輪効果を内外に喧伝してきた。

ところが経済学者で、米グスタフ・アドルフス大学准教授のジェフリー・オーエン氏は「五輪の経済効果は、事前の見積もりの足元にも及ばないことを数々の事後調査が示している」と指摘する。裏を返せば、もともと経済効果はそれほど大きくないため、五輪が中止になっても一般に考えられているほどの損失は生じないことになる。
経済効果が過大になるのは、五輪の開催に伴うマイナスの要因を差し引いていないのが一因だという。例えば五輪を開けば、試合を客が観戦する代わりに、五輪目的以外の観光客が減ることが過去の実績から分かっている。あるいは五輪関連の消費が増える代わりに、五輪とは無関係の消費が減る。
この考え方に基づけば、五輪の中止に伴って、五輪とは関係のなかった観光需要や消費が復活する。よって差し引きで正味の損失は一般に考えられているよりも縮小するわけだ。
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