だが、現実は厳しかった。3Dプリンターで試作品は作れても量産になると小ロットでの生産に協力してくれる工場を探す必要がある。この段階で多くの製造業候補生がふるいにかけられて脱落している。晴れて量産化できても、次の事業の柱となる製品を生み出せず、“一発屋”で終わってしまうケースもある。歴史の浅いメイカーの多くは手探りで事業を進めているのが現状だ。

 そんな中、単発のヒットに頼らないビジネスモデルを確立する有力メイカーが生まれ始めた。クラウドソーシングを介して仕事を受けるフリーランスが増え、新型コロナ禍により、1カ所に多くの人が集まって働く習慣に疑問符が付く時代。イノベーションのゆりかごとしても、意欲と能力のある人の新しい働き方としても、メイカーが改めて注目されている。

 ビーサイズのデスクライトとスマホ充電器の売れ行きは好調だったが、弱点があると八木氏はみていた。デザイン性の高さに共感した顧客など、買う層が限られ、売り切り型モデルでもある。この点を解消しようという考えから逆算して生み出したのが冒頭のGPS BoT。3つ目のヒットとなり、サブスクリプションモデルを確立。事業の拡大にあわせて通信技術を持つ社員を採用し、1人メーカーが今では10人規模のスタートアップに変身している。

 「製品を単発で出していくだけでは難しい。育てていくようなビジネスモデルが必要だ」と八木氏は指摘する。GPS BoTでは搭載したAIが学習した子供の行動範囲を外れると保護者の端末に自動通知が来る。独自の技術が子供を持つ親の心を捉え、顧客と長期的な接点を持つ仕組みにつながった。

特許ビジネスに進出

 小回りが利く1人製造業の強みを生かしながら、顧客との深い関係を築いて成長につなげているメイカーはほかにもある。元音響機器メーカーのエンジニア、福島英彦氏が17年に立ち上げたバタフライボード(横浜市)。持ち運べるホワイトボード「バタフライボード」シリーズは、福島氏が会社勤めの傍ら15年に開発した。自社ECに加え、今では東急ハンズやヨドバシカメラなど大手小売りでも販売されるほど浸透した。

<span class="fontBold">バタフライボードはメモ帳サイズをはじめ複数のタイプを展開。ECのほか大手小売りの販路も</span>
バタフライボードはメモ帳サイズをはじめ複数のタイプを展開。ECのほか大手小売りの販路も

 書いたり消したり、マグネットで何枚かをくっつけたり。「1人でアイデアを練りたい」「大人数で議論したい」といった用途に合わせて自在に形を変えられる。シリーズで数種類を展開し、防水加工を施していて、屋外でも使える。

 福島氏が、顧客との関係構築のために活用しているのが、クラウドファンディングだ。新しい製品を発売するたびにクラウドファンディングで資金を調達してきたが、顧客と接点を持つ場としても利用している。

 クラウドファンディングの支援者から上がった声は次の開発に生かしている。現在の商品に標準装備している細いペンも、もともとは複数の支援者からの要望で生まれたものだ。顧客の意見を取り入れようとする姿勢が受け入れられており、バタフライボードの購入者はリピーターが多い。6回のクラウドファンディングで支援してくれた1万2000人のうち、3000人が2回以上購入している。

 リアルでの接点も大切にしており、コアなファンには自ら会いに行ってサンプルを渡し、意見を聞く。A3サイズのホワイトボードを開発したときは、会議の進行でホワイトボードの需要があるファシリテーターをしている顧客に複数のサンプルを渡し、使い心地を確かめてもらった。顧客が製品開発に参加しているという満足感を得ると、SNSやブログを通じて商品情報が拡散していく好循環につながった。

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

残り4117文字 / 全文6542文字

日経ビジネス電子版有料会員になると…

特集、人気コラムなどすべてのコンテンツが読み放題

ウェビナー【日経ビジネスLIVE】にも参加し放題

日経ビジネス最新号、10年分のバックナンバーが読み放題

この記事はシリーズ「SPECIAL REPORT」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。