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通信大手の値下げ攻勢でMVNO(仮想移動体通信事業者)が苦しんでいる。格安スマートフォンが伸び悩んでおり、地域限定の「ローカル5G」に活路を見いだす。利用する企業と組んで、工場のスマート化などに取り組み始めた。

(写真=右:Tomohiro Ohsumi/Getty Images)

 「通信大手の攻勢が強まったせいで、業界が疲弊している」。NTTドコモなど大手に手数料を払って回線を借り、携帯電話サービスを提供しているMVNOの関係者はこう吐露する。初期投資を抑えられ、格安スマホサービスの担い手となってきたが、料金などの面で攻め込まれている。

上位2社は自社回線へ移行
●MVNOの回線数シェア(2020年3月末)
出所:MM総研

 MVNO市場の首位は約230万回線の楽天モバイルで、2位はKDDIのグループで同社から回線を借りるUQコミュニケーションズ。そのあとをインターネットイニシアティブ(IIJ)、NTTコミュニケーションズ(NTTコム)が追う。2008年に日本通信がドコモから回線を借りて事業を始め10年余り。寡占状態の携帯市場で期待を集めてきた。現在、回線を借りる事業者は約600社あり、20年3月末の携帯契約数の13.2%(総務省調べ)を占める。

 ただ、その拡大ペースは鈍っている。調査会社のMM総研(東京・港)によると、MVNOの契約数の伸びは19年10月~20年3月に6.8%。ピーク時の15年と比べ6分の1にとどまる。日本通信の20年3月期の連結最終損益は8億4000万円の赤字で、赤字は5期連続だ。

主導権を握るワイモバイル

 MVNOが苦しんでいる大きな要因は大手キャリアの攻勢にある。最大の存在が、ソフトバンクの低料金のサブブランド「ワイモバイル」だ。

 「料金プランへの満足度は94%。たった4年間で500万件の契約に達した」。ソフトバンクの宮内謙社長は5月、20年3月期の決算会見でこう胸を張った。たった4年間とは、低料金サービスを本格化し始めて以降の期間を指す。

 ワイモバイルはソフトバンクの自社回線を使っており、MVNOではない。シェアを拡大しつつあったMVNOに危機感を強め、顧客を奪おうとぶつけてきたサービスだ。現在、データ通信量3GBで10分以内なら何度でも話し放題のプランは契約から半年間、月1980円で、その後は2680円になる。14年のサービス開始時と比べさらに3~5割下げている。

 これに引きずられてMVNOも値下げ。例えばNTTコムの「OCNモバイルONE」は19年11月、音声定額付きの3GBプランを2割近く引き下げた。冒頭の関係者は業界全体が「大手に対抗する中で利幅がますます薄くなってきた」と話す。販売力が劣るMVNOはワイモバイルより安い料金を打ち出さざるを得ない。

 ソフトバンクは知名度と体力を武器に、店頭で消費者をしゃにむに囲い込む。ソフトバンクとワイモバイルのロゴの両方を掲げる「デュアルショップ」を、20年3月期までの2年間で1.5倍の1800店にまで急増させている。

 記者が店頭スタッフに「ソフトバンクの料金が高いので、MVNOに乗り換えるつもりだ」と持ちかけると、こう返してきた。「それなら、ワイモバイルはいかがでしょうか。この場で乗り換えができますよ」

 ソフトバンクの料金プランに不満を持つ利用者を他社に流出させるくらいなら、自社のサブブランドに誘導する。そんな“鉄壁の囲い込み”で急速に契約を伸ばしている。

日経ビジネス2020年8月3日号 46~50ページより目次