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新型コロナウイルスは、アルコールに代表される「依存症」のリスクももたらしている。在宅勤務で監視の目がなくなり、孤独やストレスも重なって自己管理が難しくなった。withコロナ時代の新たな脅威にどう向き合っていくべきかを探る。

アルコールやスマートフォンなどへの依存が在宅勤務が当たり前となる時代の新たなリスクに(写真=PIXTA)

 「以前は厳しい飲酒チェックがあったはずなのに」──。九州の病院で依存症治療を担当する医師は深刻な面持ちで口を開いた。患者は50代男性のタクシー運転手。新型コロナウイルスの感染拡大により自宅待機を余儀なくされ、昼間からの飲酒が常態化したという。

 以前は会社でアルコール摂取を厳しく管理されていたこの男性、出勤も運転もしない状況となり自分に課してきた枠組みが外れてしまった。飲酒量が増え普通の生活が送れなくなったため病院の門をたたき、アルコール依存症と診断され入院するまでに至った。

 新型コロナの感染拡大により、日本全体で仕事や生活の前提条件が一変した。5月に緊急事態宣言が解除されても、在宅勤務は日常の光景となろうとしている。市中の感染リスクが残るなか、人と直接話したり体を動かしたりといったストレス発散も難しい。

 そうした状況で水面下で広がりを見せているのがアルコール依存の問題だ。普段は周囲の目もあり、仕事をしている時間はお酒を飲まないのが一般的だ。ただ、在宅勤務で上司や同僚の監視の目がなくなった。ウェブ上でのミーティングがあっても、画面の向こうの人物がお酒を飲んでいるかどうかは容易には確認できない。

 「プレアルコホリック(問題飲酒群)の人の飲酒開始時間が早まり、アルコール依存が心配だという電話での相談が増えた」。こう話すのは、依存症治療で実績のある大船榎本クリニック(神奈川県鎌倉市)の斉藤章佳・精神保健福祉部長だ。厚生労働省によると全国のアルコール依存症者は約100万人で、治療を受けているのはこのうち5万人ほど。依存症まではいかないもののリスクが高い層が1000万人ほどいる。これが「プレアルコホリック」の人たちだ。

 全国5万5000店超のコンビニエンスストアの棚に並ぶお酒は、覚醒剤や大麻などの違法薬物、たばこなどに比べても入手のハードルは低い。ついお酒との距離が近くなってしまうわけだ。

日経ビジネス2020年7月20日・27日号 46~49ページより目次