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前回、産業革命以来の人類の活動が温暖化をもたらしたことを科学的データで示した。経済活動と温暖化抑止を両立していくには、何が必要か。経済学者・松本哲人氏は、「二酸化炭素回収」「充電・蓄電」「水素」の3分野における技術革新が鍵と指摘する。

石炭火力発電は、今後40年間を見据えてもなくならない。「技術の3本柱」で革新が望まれる(写真=PIXTA)

 国際社会は果たして、二酸化炭素排出量の削減のための脱・化石燃料ができるのか。翌年の経済成長率すら当てられない我々経済学者の頼りない予想ではあるが、今後20年を見据えると、その可能性は低いと言わざるを得ない。

 先進国に限るなら、化石燃料の消費が減る可能性は高い。人口、所得とも増加が頭打ちな中、エネルギー効率が改善し続ければエネルギー消費が減り、再生可能エネルギーの利用が増えれば、脱・化石燃料も進むからだ。

新興国が鍵を握るが……

 二酸化炭素排出量の削減は、新興国が鍵を握る。化石燃料の消費は、主に新興国で増えているからだ。中国、インドでは自国産業の保護やエネルギーの安全保障上の理由で石炭火力発電利用の推進を緩めることはあれど、放棄する動きは見られない。公害のもととなる窒素化合物や亜硫酸ガスなどは安価に除去でき、公害対策が歯止めになるかどうかは未知数だ。アフリカなどほかの新興国にも、インフラ整備が必要な天然ガス火力より、安価な石炭火力の方が魅力的に映る。

 二酸化炭素排出による温暖化問題を解決するためには、新興国が石炭火力を新設するのを抑え、現存する石炭火力の早期廃棄を進めるしかない。だがさほど石炭産業に頼っていないドイツでさえ、石炭火力の「早期廃棄」では大もめにもめた。それが新興国で実現する可能性は、かなり低いといえる。

 一方、二酸化炭素あたりの発電効率の高さを考えると、石炭火力をガス火力に置き換えるだけで二酸化炭素削減につながる。だが採取時に別の温室効果ガスであるメタンが発生し、最終的には二酸化炭素も発生する。天然ガスの利用自体は、二酸化炭素及び温室効果ガスの削減につながらない。石炭から天然ガスへの転換は改善だが、再生可能エネルギーへの転換と比べると「最善」ではない。

 天然ガスには、再生可能エネルギーのバックアップや、水素をつくるときの発生源としての役割もある。再生可能エネルギーが、発電量を自由に調整できない点を前回指摘した。調整弁の役割を果たせるのが、出力の調整が最も自由で、かつ二酸化炭素排出量が相対的に低い天然ガスになるのは自然な流れだ。また、水素は燃料電池の発電源だが、水の電気分解のコストが今後も高いまま推移するなら、天然ガスと二酸化炭素回収を組み合わせたほうが、環境面と経済面の双方から現実的となりそうだ。

 その他、現在は重油や軽油を利用する船舶で液化天然ガス(LNG)の利用が増えると予想される。充電技術が進歩し、短距離なら蓄電池で動かせる船が登場することもあり得る。しかし、天候の分からない長距離航海では、LNGや燃料電池などの方が向くだろう。

 以上を勘案すると天然ガスは、充電技術が大幅に進化するまでの20~30年の間、世界経済が成長するに従い、それなりの需要増が期待される。ガスが最終的に他の再生可能エネルギーに置き換わるかどうかは、二酸化炭素の回収技術が進化するかどうか次第だ。

日経ビジネス2020年7月13日号 44~48ページより目次