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世界では新型コロナウイルスに関する様々なデマが飛び交っている。感染時の治療法や予防法に関するデマは人々の命を危険にさらすこともある。SNS大手やネットメディアが、拡散されるデマ情報の撲滅に乗り出した。

新型コロナ関連の誤情報がインターネット上に大量に流布した。SNSの普及がデマ拡散を加速させている(写真=PIXTA)

 3月、イランでは「産業用アルコールを飲めば新型コロナウイルスを予防できる」というデマがまん延し、一部の地域でアルコール中毒死する人が続出する事態となった。

 このデマは、情報収集の手段として市民に定着したSNS(交流サイト)などを介して急速に広まったとみられる。新型コロナの感染拡大による社会不安と、誰もが「情報の発信者」になれるツールが、多くの人命を奪う深刻なデマを誘発した。

 コロナ危機が全世界に広がる中、誤った情報が急速に広がることで社会に悪影響が及ぶ「インフォデミック」がこれまで以上に深刻な社会問題として急浮上している。インフォデミックは、「情報(Information)」と、感染症の拡大を指す「エピデミック(Epidemic)」を組み合わせた造語だ。

重い腰を上げたSNS大手

 コロナ危機に際してはウイルスだけでなくデマも国境を越えた。SNSを運営するプラットフォーマーやメディアは、世界に拡散されるデマに様々な方法で立ち向かっている。

 ツイッタージャパン(東京・中央)広報の西村奈津子氏は「新型コロナウイルスに関しては、今まで以上に踏み込んだルールを取り入れている」と語る。

ツイッターの特設ページには、報道機関からのニュースなど、新型コロナ関連の最新情報が掲載されている

 ツイッターは3月中旬に、「健康と命に関わる深刻な誤情報」は削除するという方針を発表した。4月23日の時点で、明らかな誤情報や法的機関のガイドラインに反する約2200件の投稿を削除した。

 今回の方針変更は、SNSを舞台にしたデマ拡散に本気で向き合い始めるという宣言だ。ツイッターはこれまで、「表現の自由」こそSNSの本質的な価値であるとして、投稿の内容にはできるだけ干渉しない方針だった。しかし、コロナ危機を契機にそうは言っていられなくなった。

 フェイスブックも新型コロナの感染拡大が深刻化してきた1月末から、誤った治療法など、身体的な危害につながる投稿の削除に乗り出した。同社はさらに、世界の60を超えるファクトチェック団体との連携も強化している。

フェイスブックは、連携するファクトチェック団体が誤情報と判定した記事を拡散する投稿に警告ラベルを表示する

 ファクトチェックとは、社会に出回る真偽が疑わしい情報の出どころや拡散の経緯を調査して、正しい情報を公表する検証作業のこと。メディアでの勤務経験者などが参画する非営利団体(NPO)などが各国で活動する。

 ファクトチェック団体が誤情報と判断したネット上の記事を見つけ、それを拡散しようとする書き込みを抽出する。削除するほどではないと判断した場合は、独自の警告ラベル(44ページ左上の写真)を表示する。「利用者の目につきにくいよう、投稿が画面に表示される頻度を大幅に減らす調整をかけている」とフェイスブックジャパン(東京・港)広報の嶋田容子氏は話す。

 3月には4000件のネット記事がファクトチェック団体によって誤情報と判定され、その記事を拡散した4000万件の投稿に対して、警告ラベルを表示した。同社によると、ラベル付きの投稿を閲覧した人のうち、実際に記事のURLをクリックして元記事を読んだ人は、約5%にとどまったという。

 両社は、利用者が正しい情報にアクセスしやすくする取り組みも並行して進めている。

日経ビジネス2020年6月22日号 42~46ページより目次