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コロナ禍の到来を機に導入が進んだテレワークで、実践する社員の明暗が分かれてきた。緊急事態宣言解除後も続行を望む声がある一方で、早々と通常勤務への復帰を願う人もいる。背景には、ひとつ間違えると社員の意欲減退や心の病にもつながる「在宅勤務の危険性」がある。

コロナ禍で都市部のオフィス街で働く人は急減。在宅勤務を中心にテレワークが一気に進んだ(写真=3点:PIXTA)

 「リモートで仕事をしているのに『人間関係の悩み』や『無駄な会議』がかえって前より増えた気がする。テレワークそのものには慣れたけど、気分がすぐれない」。東京都内に住む大手メーカー勤務のA氏(51)はこう話す。

 A氏の会社でもここ数年、在宅勤務や育児休暇制度の拡充など様々な仕組みが導入された。もっとも、「ベンチャーや先進企業と違って、“在宅=さぼり”という意識が根強い典型的な従来型日本企業」とあって、制度の利用は限定的。とりわけテレワーク制度は半ば形骸化しつつあったという。

 そんな状況を一変させたのは、言うまでもなく今年に入ってからのコロナ禍。A氏の会社も4月以降、「半強制の状態」でテレワークの導入が進んだ。当初は満員電車に乗らず、自宅で仕事できる状況に満足していたという。それが1週間、2週間たつにつれて、ストレスがたまり始めた。

 「最初は、自宅でのリモート作業に慣れていないことによるストレスだと思っていた」とA氏は話す。オンラインで会社の重要情報や基幹システムにアクセスするには、セキュリティー上、その都度、面倒な手続きが必要になる。職場の同僚への情報伝達も隣の机で仕事していれば数秒で済むのに、メールやチャットでは1時間かかる時もある。ただこれらについては、やがて慣れた。

 世間では、テレワークによるメンタル異変の原因として「孤独」が挙げられている。一日中、誰とも話をせず気がめいるという話だが、A氏には家族がいるし、むしろ家庭内の会話はコロナ前より増えた。会社による過剰な「監視」に悩まされている人が多いとも聞いたが、A氏の会社は違う。例えば、在宅での仕事で緊張感を維持させようと上司が、社員の自宅PCのカメラを一日中つけさせる「ビデオ終日オン」も、今のところ始まっていない。

 ストレスの原因がはっきりしないまま、在宅なのに以前より仕事の悩みや無駄な会議が増えた気さえしてきた。ただこの点についても、冷静に考えると、実際には今の働き方に移行してノルマが上がったわけでもなければ、会議の数自体が増えたわけでもない。

 「医療従事者やテレワークが難しい職業の人々に比べれば、自分は相当恵まれていると思う。でも、ぜいたくな悩みと思う半面、片道約1時間の通勤生活の頃とはまた違ったストレスを少なからず抱えている」(A氏)。日課になった散歩で、近所の同年代の会社員2人にこの話をすると、意気投合した。どうやら、世間でいわれる「業務上の支障」や「孤独問題」とは別の原因による、新手の“テレワーク鬱”のようなものがあるのではないか──。これがA氏を含めた3人が行き着いた結論だ。

日経ビジネス2020年6月15日号 44~48ページより目次