アーティストの登竜門として文化芸術活動を支えてきた小劇場やライブハウス。新型コロナウイルスにより演者や作品との「密接さ」がリスクとなり、窮地に立っている。ファンやアーティストとともに持続可能なモデルを築けるか。新たな生態系を探った。

横浜・長者町で1964年から続く映画館「横浜シネマリン」。政府の緊急事態宣言を受け4月8日から臨時休館を続け、5月の観客とチケット収入はゼロ。劇場を訪れると、誰もいない客席で空調が忙しく回り続けていた。
「換気を止めてカビが生えたら大変でしょう」。以前は専業主婦だった八幡温子代表。経営が傾き閉館の危機にひんしていた映画館を2014年に買い取った。横浜シネマリンは、席数102席のいわゆる「ミニシアター」だ。主にドキュメンタリーや海外映画、若手監督の作品を上映するミニシアターには、全国に根強いファンがいる。
ただ、「小規模な映画館の運営は大きな収益が望めるようなものではなく、蓄えも難しい」(八幡代表)。建物が古い場合も多く、一度閉館すると復活には現行の建築基準法へ適用させる大規模な改築が必要なこともある。日々の運営にも余裕があるとは言えない中、新型コロナウイルスの感染拡大という予想もしなかった事態が訪れた。
これ以上休館が続いたらもつかどうか──。ギリギリの運営を続ける全国のミニシアターを閉館の危機から救うために4月13日に立ち上げられたのが「ミニシアター・エイド基金」だ。
発起人は、それぞれ作品がカンヌ国際映画祭で上映された実績を持つ映画監督の深田晃司氏と濱口竜介氏。「映画の成長と多様性のためにはミニシアターが欠かせない」という思いが出発点だった。クラウドファンディングのサイトを運営するMotion Gallery(モーションギャラリー、東京・港)の大高健志社長に相談を持ち掛けた。
支援は3000円から受け付け、額に応じて22年まで有効な映画チケットや映画のストリーミング再生権などが見返りとして用意されている。支援金は開始2日で1億円を突破し、5月15日の終了時には2万9926人から総額およそ3億3000万円が集まった。117劇場を運営する102団体が1団体当たり平均306万円の分配金を受け取れる。
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