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島根県に人口4万人弱ながら都会から若者が集まり、社会的起業が相次いでいる街がある。全国各地で地域活性化の担い手不足が浮き彫りになる中、極めて珍しいケースだ。ひとづくりに地方創生の力点を置く、「雲南モデル」を紹介する。

人口4万人足らずの雲南市だが、2019年度から社会実装を目指す企業が参入。6社が活動を展開する。視察に訪れた企業も1年間で34社に上る

 「過疎」という言葉にルーツがあるのをご存じだろうか。昭和30年代(1955~64年)に高度経済成長に伴う産業構造の転換で、猛烈な人口流出に見舞われた島根県の旧匹見町(平成の大合併で益田市に編入)の当時の町長が、政府やマスコミに惨状を訴えるのに、都市部で問題になっていた「過密」の対義語として使い、定着したとされている。

 そんな“過疎発祥”の地、島根県の山間地にあって現在、全国から社会的起業(ソーシャルベンチャー)を目指す若者や、新規事業の創造に取り組む企業が続々と集まっている街がある。

 島根県雲南市──。人口3万7000人余りながら、今年4月までの過去5年間に66人が“起業家の卵”としてこの街に移住し、医療・介護や教育などで活動を展開する。うち約半数は首都圏からの移住だ。66人と聞くとピンと来ないかもしれないが、人口が100倍の横浜市で考えてみれば、6600人というインパクトになる。内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局の島田勝則参事官は「非常に大きい数字。全国的に見ても極めてまれなケースだ」と話す。

 2019年からは、既存の大企業などによる雲南市をフィールドにした「社会実装」の取り組みも本格化している。社会実装とは、社会課題の解決や経済発展を目指す研究開発のことだ。

 ヤマハ発動機が、グループ会社のヤマハモーターパワープロダクツなどとゴルフカートを転用した高齢者に優しい新交通の実証実験に着手しているほか、竹中工務店は建物の環境が使い手の健康に与える影響について調査研究をしている。視察に訪れた企業も1年で34社に上り、その内訳も自動車やIT・情報通信、金融など幅広い。

5カ年計画を回し東京一極集中の是正を目指す
●地方創生の概要
東京では人口が再生産されない
●合計特殊出生率ランキング(2018年)
好景気もあり、東京への流入は拡大
●東京圏への転入超過数の推移

 安倍政権が打ち出した「地方創生」の最初の5カ年が終わったが、当初掲げていた20年に東京圏(東京、埼玉、千葉、神奈川)への転入出数を均衡させるという目標は、未達のまま。それどころか、転入者数が転出者数を上回る「転入超過」は拡大傾向にある。19年の東京圏への転入超過は14万8783人で、前年より8915人も拡大した。

 ただ、だからといって、地方創生の旗を降ろすわけにはいかない。1人の女性が生涯に産む子どもの数を示す「合計特殊出生率」を見ると、18年時点で東京都は全国平均の1.42人を大きく下回り、1.20人と都道府県別で最下位だ。人口が再生産されない東京への若者の流入が続けば、日本全体の人口減少に拍車がかかりかねない。

日経ビジネス2020年4月27日号 42~46ページより目次