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新型コロナウイルス対策で緊急事態宣言が発動され、さらに広がるリモートワーク。だが、在宅期間が長引くにつれて、在宅勤務疲れや生産性の悪化を指摘する声も出てきた。エール取締役の篠田真貴子氏の声がけで、リモートワークの論客が集まり座談会を開いた。

リモートワークで生産性は下がってしまうのか? 在宅勤務の長期化で顕在化する課題を3人の論客が徹底討論した(写真=Martin Benik/Westend61/amanaimages)
(写真=仲山氏:守谷 美峰)

篠田真貴子・エール取締役(以下、敬称略):新型コロナウイルスの感染拡大防止策としてリモートワークを急きょ導入する企業が増えていく中で、疑問に思うことがありました。これまで多くの大企業が、労務管理の難しさや情報漏洩のリスクなど導入できない理由をいくつも挙げていたのに、それらの理由をとりあえず脇に置いてリモートワークに踏み切っていることです。つまり、これまで指摘されていた「できない理由」は未解決のまま。この状態が続くと結局は「リモートワークって駄目じゃん」となるのではないかと心配です。

仲山進也・楽天 楽天大学学長:僕も、今回のことでリモートワークを初体験した方々のSNSへの投稿などを見ていると、誤解があるなと思います。「いつもよりはかどった」などポジティブな声も多い半面、「やっぱりうまくいかない」という声も増えつつあります。僕の専門の一つはチームビルディングで、リモートワーク歴16年の立場から言うと、その“うまくいかなさ”には、「リモート」がうまくいってない場合と、「ワーク」、つまりそもそものチームワークがうまくいってない場合があります。

出社組vsリモート組の“分断”

倉貫義人・ソニックガーデン社長:僕はソフトウエア会社を経営していて、7年前から、僕も含め社員全員リモートワークに切り替えました。その経験から言うと、まず、「リモートワークをしたい人はどうぞやってください」という「選択制」や「許可制」ではうまくいきません。

 リモートワークを許可するのは、部門長や部長といった“偉い人”ですよね。現時点で偉くなっている人たちは、たいてい「毎日オフィスに来て仕事をする」というスタイルで出世して今がある。だから、習慣として出社し続けてしまう。そうなると、その下で働く人たちは「自分も出社しなくては」となるわけです。

エール取締役の篠田真貴子氏

篠田:目に浮かびます(笑)。

倉貫:そして、許可制でリモートワークを働き方の選択肢の一つにすると、同じチームの中に「出社組」と「リモート組」ができます。その結果、まず短期的には「リモートのほうが生産性が落ちる」という誤った認識が広がってしまう。

 僕は“自転車理論”と呼んでいるのですが、自転車も初めはうまく乗れず、転んだりよろけたりします。「歩いたほうが速くない?」と言われる。でも、練習して自転車に乗れるようになると、歩くよりも速くなる。

 同じことがリモートワークの導入期にも言えます。初めて試す段階ではまだ慣れていないので不具合が起きるのは当然です。初期の練習中に「リモートワークはうまくいかない」と決めつけるのはナンセンスです。その段階を抜けた先の生産性が劇的に向上する状態をイメージすることが重要です。

仲山:今までの仕事のやり方は「オフィスにいることを前提に最適化されたチームワーク」なので、新たに「リモートでのチームワーク」を確立するために試行錯誤は不可欠です。大事なのは、それに伴うパフォーマンス低下を、全員が「成長に必要なプロセス」として捉えることです。

日経ビジネス2020年4月20日号 46~51ページより目次