外食店とグルメサイトの蜜月関係が崩れかけている。グーグルやSNSにユーザーが移り、グルメサイトの効果が薄れたと店側が感じているためだ。新型コロナウイルスの影響で外食店は苦しい。集客サービスの勢力図が変わるかもしれない。
ワンダーテーブルは、グーグルマップからの流入客や外国人客の増加を受け、グルメサイト依存からの脱却を進めている(左)。スマホの浸透がグルメサイトを成長させた(下)(写真=ワンダーテーブル提供)
「1店舗当たり毎月、20万~30万円かかる手数料が負担になっていた」。「鍋ぞう」や「ロウリーズ・ザ・プライムリブ」など国内外で約120店舗を展開する外食グループ、ワンダーテーブル(東京・新宿)。マーケティング部の竹原真理子部長はグルメサイトの利用を段階的に減らしていると明かす。
グループとしてこの方針を決めたのは2019年4月だ。食べログやぐるなびなど1店舗で3~5のサイトを併用していたが、各社に支払うコストが見逃せなくなっていた。
「3大グルメサイト」と呼ばれる食べログ、ぐるなび、ホットペッパーグルメを飲食店が利用するには、月額固定の掲載料とインターネットで予約した来店客の送客手数料がかかる。食べログの場合、有料掲載プランは1万円から10万円の間で選択する。1人当たりの送客手数料はランチが100円で、ディナーが200円。サイト内での店舗検索では、食べログがユーザーの評価に伴う点数ランキングでの表示もできるものの、各社とも掲載料が高額になるほど上位に表示される仕組みだ。
グルメサイト各社はスマートフォンの普及でインターネット予約が浸透した14年前後から、掲載料に加え、送客手数料を取るようになった。15年以上前からサイトを利用してきたワンダーテーブルには、じわじわと費用が重荷になっていたという。
同社の社内には「掲載を減らせば売り上げも落ちるのではないか」との懸念があった。しかし、グーグルで検索する場合に、ユーザーがどんなキーワードから自社の店舗にたどり着いているか、グーグルの事業者向け情報管理ツール(グーグルマイビジネス)を使って調べてみると、店舗名を直接打ち込む割合が4割に達していた。
「しゃぶしゃぶ+新宿」のようにエリアと業態による間接検索は6割。4割は少なくとも固定ファンといえる。この層がグルメサイトで予約した際に流出する手数料を看過できないと判断した。
これ以降、ワンダーテーブルはグルメサイトの有料プラン解約を進めると同時に、無料で使えるグーグルやインスタグラムに掲載する店舗の情報を充実させている。自社ホームページからネット予約が入りやすい環境を整え、19年4月から12月までの間にグーグル検索からの流入客は5倍に増えた。手応えを感じている竹原氏は「近いうちにグルメサイトに頼らない集客体制を作り上げたい」と話す。
SNSの「パンチ力」
「脱グルメサイト」を模索する外食業が増えている。ワンダーテーブルのように、グルメサイトに支払う手数料を負担に感じ、改めて費用対効果を分析すると、必要性が低下していることが分かってきたためだ。
東京都千代田区にある女性に人気のカフェレストラン。食べログの点数が3.5以上の人気店だ。最近、来店客の注文の仕方が変わってきたという。
従業員が「注文はお決まりですか」と尋ねると、女性客がおもむろにスマートフォンをかざす。「これが食べたいです」。インスタグラムには、同店のケーキの写真が投稿されていた。
昨年、チーズケーキの注文が急増した際は多くのフォロワーを抱える「インフルエンサー」がツイッターに写真を掲載していたことが後に分かった。ラグビーワールドカップの時期は外国人に人気の口コミサイト「トリップアドバイザー」を見た訪日客が増えた。
この店のマーケティング担当者は、「食べログの写真をかざして注文するお客さんはいない。SNS(交流サイト)とグルメサイトでは、パンチ力が違う」と話す。食べログには店舗の写真やメニューを掲載しているがネット予約機能は使わずに手数料を抑えているという。
飲食業向けサービスのテーブルチェック(東京・中央)が20~60代の男女1112人に19年11月に実施したアンケート(複数回答)では、飲食店を検索する際に使う手段の1位はグルメサイトで78.9%。2位が48.3%のグーグル検索だった。グーグルマップなど地図サービスは30.2%、インスタグラムなどSNSは23.6%となり、合計するとグルメサイトをしのぐ勢いであることが分かる。
こうした「非グルメサイト」の台頭を、外食店も敏感に感じ取っている。
人材サービスのクックビズ(大阪市)が外食業に尋ねたアンケートが下のグラフだ。17年と20年を比較すると食べログとぐるなびの利用率が下がったのに対し、グーグルマップは26.2%と13.2ポイント増え、トリップアドバイザーは19.6%で8.6ポイント増えた。3大グルメサイト以外のサイトに利用が分散している傾向が見てとれる。
飲食業界でグーグルマップの存在感がじわりと高まっている
●外食業に聞いたよく使う集客手段
注:クックビズの調査を基に作成。グルメサイトなどを利用していると答えた企業(2017年12月が71社、20年2~3月が61社)に複数回答で利用サイトの具体名を尋ねた
グーグルマップの利用が増える背景に、近年の口コミ機能の充実がある。例えばグーグルマップで業態とエリアを入力すると、地図にいくつかの店の場所が表示される。その下に店名や評価点数、店の紹介、客の口コミや投稿した写真が並ぶ。グーグルの検索窓を使えば一目でこれらの情報を確認できるため、グルメサイトを使って検索するより、一手間少なくて済むわけだ。
外食店からみると、掲載料も無料。グーグルマイビジネスを使えば、店舗の情報を費用をかけずに充実させることもできる。外食業界では、ネット検索の上位に出てくるためのSEOではなく、地図でいかに表示されやすくするかという「MEO(地図エンジン最適化)」という言葉が広がっている。
公取委の追い打ち
3月18日、公正取引委員会の調査報告書が、グルメサイトに対する外食業界の不満を白日の下にさらした。19年4月から20年3月にかけて、グルメサイト運営会社や全国の外食店約1600店、一般消費者約1万人などに実施した調査の報告書は、店舗が表示される順位に潜む問題点を強調している。
グルメサイト優位の構図が鮮明に
●公正取引委員会が報告書で指摘したグルメサイトと外食店の取引課題
1ページで指摘した通り、多くのグルメサイトは、高額な掲載料を支払っている外食店を上位に表示する仕組みを採用している。検索した条件に当てはまる店舗のうち、高額プランの店がサイト利用者の目に入りやすくなる。同じ料金プランの場合、インターネット予約の空席数や閲覧者数、ポイント・プログラムへの参加の有無などで優先度が決まる。
グルメサイトは外食店向けの広告媒体という性質を持っており、料金次第で掲載順位が変わるのは当然と言える。ただ、外食店からは「グルメサイトから集客のために表示順位を上げなければならないと言われると、高額プランを契約せざるを得ない」という声が聞かれる。公取委はこの実態を問題視し、「独占禁止法に違反する優越的地位の乱用となる恐れがある」とした。
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