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官民一体となって日本が世界をリードしてきた水素エネルギーの活用。低炭素社会実現に向け、欧米勢を中心に海外でも次々にプロジェクトが動き始めた。実用化が10年早まるとの期待もあるが、先頭の座を奪われかねない状況となっている。

世界初の液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」はオーストラリアで生産した水素を日本に運ぶ(写真=左下:©岩谷産業株式会社)

 3月7日。兵庫県播磨町にある川崎重工業播磨工場では、土曜日にもかかわらず朝7時30分から作業が始まっていた。川崎重工技術開発本部水素チェーン開発センター長の西村元彦氏の視線の先にあるのは、昨年12月に進水したばかりの世界初の液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」だ。

 この日行われたのは、直径10mの巨大な水素タンクの設置作業。10mm単位で位置を調整しながら、海上で揺れる船に5時間かけて据え付けるという難しい作業だ。無事に終了すると、「温暖化対策のゲームチェンジャーとなる船がまた一歩完成に近づいた」と西村氏は胸をなで下ろした。

 今、国内ではこうした水素関連の多くのプロジェクトが進行している。この3月上旬は大型プロジェクトの節目となりそうな出来事が数多くあった。

 6日にはトヨタ自動車や中部電力など10社が水素の具体的な活用方法を検討する「中部圏水素利用協議会」を設立。7日には東芝や東北電力などが手掛ける福島県浪江町の世界最大級の水素の製造拠点の開所式が開かれた。

 日本にとって、水素社会の実現は「3度目の正直」と言える状況にある。過去2回は1990年代前半と2000年代前半。エネルギー安全保障の観点から、中東に依存する化石燃料からの脱却が求められていたことや、二酸化炭素(CO2)の発生を抑えられる環境性から水素社会実現を官民で模索した。ただ「経済合理性との折り合いに苦しみ、はやり廃りを繰り返してきた」(重工関係者)。

 そして今回。13年ごろから水素に再び脚光が集まり始め、14年には政府が「水素・燃料電池戦略ロードマップ」を策定。17年には水素基本戦略が策定され、水素社会を実現する上で必要な行動計画などを定めた。

不可欠な化石燃料と再エネ

 政府の方針と歩みを合わせるように、民間企業のプロジェクトも複数動きだしている。特に日本が力を入れるのが、水素を利用するための「作る」「運ぶ」「使う」というサプライチェーン構築だ。

 水素の主な製造方法は、化石燃料を化学反応させ、水素とCO2を発生させるものや、再生可能エネルギーの余剰電力などを使って水を電気分解し、水素を取り出すものがある。

 いずれの方法も化石燃料や再生可能エネルギーの余剰電力が必要になるため、日本には水素の輸入が必要不可欠になる。一気通貫のサプライチェーンを構築しようとするのはそのためだ。

 サプライチェーン構築で、注目を集めている手法は3つある。1つ目が、川崎重工や丸紅などがオーストラリアで手掛けるプロジェクト。現地で採掘した安価な石炭から水素を製造し、マイナス253度に冷却した液化水素を、川崎重工が建造する運搬船で日本に運び発電などに使用する予定だ。プロジェクト全体で30年の商用化を目指す。

日経ビジネス2020年4月6日号 44~48ページより目次