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2011年3月11日に発生した東日本大震災から10年目。福島第1原子力発電所事故を受け、電力各社は原発再稼働もままならない。生き残り策は修繕費などのコスト削減頼み。各社はまだ未来図を明確に描けていない。

水素爆発の爪痕が残る福島第1原発1号機(左上)。除染のためはぎ取った土壌(左下)を埋める中間貯蔵施設への道は厳しく規制されている(右上)。原発の汚染水処理タンクは2年後にも貯蔵の限界に(右下)(写真=右上・左下:代表撮影)

 2011年3月11日の東日本大震災の際に未曽有の大事故を起こした福島県大熊町の東京電力(現・東京電力ホールディングス)福島第1原子力発電所。あれから間もなく10年目に入る今年2月、現場に足を踏み入れた。

 高さ16mの津波に襲われた同原発のうち、1~3号機は核燃料が溶け出す炉心溶融を起こして大量の放射性物質を広い範囲にまき散らした。建屋の一部は今も鉄骨がひしゃげ、ひずんだ配管が垂れ下がる。海に向け破壊された内部をさらした姿は、事故のすさまじさを物語るが、敷地内では廃炉に向けた作業が進み始めていた。

 建屋に染み込む地下水や雨水によって生まれる汚染水処理を進める一方で、建屋内に残っていた使用済み燃料を取り出し、炉内で燃料棒が溶け出した溶融燃料(デブリ)を搬出する準備にも入っている。

 汚染水については「浄化装置で放射性物質を取り除き、除去が難しいトリチウムを残した状態で敷地内のタンクに置いている」(八木秀樹・東電ホールディングス原子力・立地本部長代理)。敷地内の放射線量も低下し、96%の場所では防護服ではなく、平服で問題なくなったという。

 本格化する福島第1原発の廃炉作業。だが、放射性物質のリスクを軽減しながらの作業はこれから珍しい光景でなくなる。「3.11」をきっかけに、電力各社は原発の廃炉を相次ぎ決めている。

 原発は、発電コストの低さから福島第1原発の事故前には常に発電を続ける「ベースロード電源」とされてきた。しかし、事故後に安全基準が厳しくなり、12年5月にはすべての原発が稼働を止めた。各社は再稼働を目指すが、地元自治体の反対などでままならない。今、全国で稼働しているのはわずか9基だ。

 原発を動かせなくなった電力各社の収益環境は一気に厳しくなった。原発の代わりに頼るのは燃料コストの高い火力発電。10年3月期に発電量の約半分を原発で賄っていた関西電力は福島第1原発事故の後、原発での発電が大幅に減り、12年3月期から4期連続の最終赤字に落ち込んだことが象徴する。

 国は福島第1原発事故の後、設備老朽化による事故を防ぐため、原発の運転期間を原則40年とし、原子力規制委員会が認めれば、最長60年まで延長できるようにした。それでも再稼働にかかるコストは「数千億円に達する」(大和証券の電力担当アナリスト、西川周作氏)。運転期間を延長できたとしても投資回収が見込めないのであれば、電力会社にとって廃炉が現実的な対応となるのである。

 21年3月に稼働開始から40年を迎える九州電力の玄海原発2号機(佐賀県玄海町)。定期検査中に福島第1原発の事故が起こり、以後、稼働を停止したままだったが、九電は19年2月に廃炉を決めた。「再稼働した場合の残存運転期間などを総合的に勘案した結果、廃止を決定しました」。九電の池辺和弘社長は佐賀県の山口祥義知事に廃炉決定の理由をこう説明している。

 玄海2号機以外でも関電の美浜原発1、2号機(福井県美浜町)と大飯原発1、2号機(同おおい町)、東北電力の女川原発1号機(宮城県女川町)など、全国で60基ある原発のうち計24基で廃炉が決まっている。

日経ビジネス2020年3月2日号 48~52ページより目次