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業績不振に陥った企業を1円で買い取るケースがM&A業界でたびたび出ている。売られた企業はやっぱり立て直せないのか。それとも新たな成長の果実を得られるのか。成否の分かれ目がどこにあるのかを探ってみた。

小倉駅前のコレットは11年で幕を閉じ今はアイムとして営業。上は08年の開業時、下は19年の閉鎖時(写真=左2点:共同通信)

 1月上旬の平日昼下がり。北九州市のJR小倉駅前にある商業ビル「アイム」は、大改装で工事中の区画が多いこともあって閑散としていた。14階建てで売り場面積が約4万6000m2と小倉駅前で最大の商業施設。大改装の理由は2019年2月28日、地下1階から地上6階に入っていた商業施設「コレット」が11年にわたる営業を終え、閉店してしまったからだ。

 コレットは、地元百貨店の井筒屋が08年に小倉伊勢丹を1円で買収して開業した。小倉伊勢丹は伊勢丹が70%、井筒屋が30%出資し04年に開業した都市型百貨店。だが開業以来赤字続きで伊勢丹が撤退、その持ち分を1円で買収し井筒屋がコレットとして新装開店した。だが状況は改善しなかった。

 人口減に高齢化、近隣の大都市への消費者流出などを背景に地方百貨店が厳しいのは全国共通の課題だろう。だがコレットが苦戦したのはこうした構造問題だけではない。

 小倉駅前という好立地のためコレットには「小倉ロフト」や「無印良品」、「ZARA」といった若者にも人気で集客力のあるテナントが入っていた。これらのテナントはコレット閉鎖後も営業を続けており、個々のテナントとしては採算が取れていることがうかがえる。井筒屋の撤退後に全館専門店となったアイムの運営を請け負うのは野村不動産グループのジオ・アカマツ(東京・新宿)。20年4月に家電量販店のベスト電器を誘致するという一部報道もある。

 集客力がないわけではないのだが、コレットは苦しんだ。「払う賃料ともらうテナント料が見合わなかった」(地元経済界)ことが原因との指摘は多い。

 コレットが入っていたビルの大家は北九州都心開発。同社はコレットの家賃を井筒屋の要請で何度も引き下げたと証言する。18年夏に井筒屋がコレット閉鎖を発表したときも「賃料の減額交渉中だったが、いきなりニュースで閉鎖と知り驚いた」と北九州都心開発の木下和利総務部長は振り返る。

一等地死守の威信があだに?

 賃料を下げてもらい、集客力のあるテナントを一部抱えながらも利益が出なかったコレット。地方経済をむしばむ構造問題ももちろんあるが、固定費の重さと適正なテナント料を確保できなかったことも大きいのではないか。1円で買収した当時の中村真人・井筒屋会長は「駅前の一等地を他に取られるわけにはいかなかった」と述べている。コレットの前身の小倉伊勢丹から伊勢丹が撤退する際、残された形の井筒屋は地元百貨店の威信をかけ、1円買収の妥当性をきちんと評価せずに店舗を引き継いでしまった可能性がある。

 コレットの閉鎖損失などが膨らんだため、井筒屋の19年2月期決算は4期ぶりの最終赤字に転落した。1円というタダ同然で買った百貨店は最後、大きな痛手を残して消えた。結果は「タダより高い物はない」だった。

 M&A(合併・買収)業界でたびたび見られる1円買収。1円で買収された主な例の表(下)に示した通り、数百億円の売上高の企業を1円で買い取る例もある。だが、常識的に考えれば、1円の価値しかない企業にはなにかしら問題点がある。それを解決できなければ1円では済まない授業料が待っている。冒頭のコレットはその一例だろう。

意外な企業も1円で買収されている
●1円で買収された主な例(社名やデータは一部当時)
出所:レコフ調べ

 それでも「お買い得」であるのも確かだ。そうした事例も少なからずある。どこで成否を分けるのだろうか。ここからは、1円買収でうまくいった事例を見てみよう。

日経ビジネス2020年1月27日号 48~52ページより目次