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都市圏での本業と、地方での副業を両立させる新しい働き方に注目が集まっている。働く側は地域への貢献と自らの成長を期待し、地方企業は不足するスキルを補う。ハードルが高い定住に代わって自治体が受け入れ体制を整え、急速に広がり始めた。

(左)藤三旅館別邸は海外のリゾートをイメージして設計している/(右)聖護院カブを持ち上げる副業希望者。漬物の販売促進が課題だ

 600年の歴史を持つ岩手県花巻市の鉛温泉。11月23日、地区に唯一残る「藤三旅館」運営会社の藤井大斗専務(40)は首都圏から訪れた男女5人に「ぜひ、ブランディングを手伝ってください」と呼び掛けた。天然の岩をくり抜いた湯船から湧き出る源泉と純和風の館は人気を博しているのに、5年前に建てた別邸「十三月」が悩みの種という。

 海外リゾートをイメージした十三月は都心と見紛う洗練されたラウンジ、ガラスの装飾が輝くレストラン、瀟洒(しょうしゃ)な客室を持つ。温泉地に似つかわしくないとがったデザインが受け入れられず稼働率が低迷していた。

 藤井氏の説明を男女5人はメモを取りながら聞き入った。5人は岩手での副業を希望し、1泊2日の日程で花巻市を訪れており、鉛温泉だけでなく地元の野菜を使った漬物製造会社やゲストハウスの運営企業など計5社を巡った。年内に地域企業向けに提案書を送り、採用されれば晴れて副業の開始となる。

 岩手県は2018年度、副業をしたい都市圏の人材を地元企業と結び付ける事業を始め、バーチャル組織「遠恋複業課」を立ち上げた。首都圏と岩手県を行き来しながら働く姿を、遠距離恋愛中の恋人たちに例えた。お堅い県庁らしくないネーミングが、首都圏の人材の目を引いている。

 11年の東日本大震災以降、岩手県には多くのボランティアが訪れるが「受け皿を作れずに一過性の関係になってしまった面がある」(岩手県の畠山剛地域振興監)。無報酬のボランティアが一方的に与え続け、地域が単純に受け取る関係は、長く続くと互いに疲弊するという指摘もある。岩手県はこうした経験から、県外の人材に地域の企業が業務を委託する形をとれば、継続的な関係が築けるのではないかと考えた。

日経ビジネス2019年12月23日・30日号 58~62ページより目次