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サービスの場を提供することで多くのプレーヤーを引き寄せるプラットフォーマー。ユーザーのデータを収集しながら寡占を目指すビジネスは、GAFAの専売特許のようにみえる。だが、実は小さな市場でも実現できる。プラットフォーマーになろうと奮闘する動きを追った。

ウェルモの田中優加さんは自社プラットフォームに登録するため、「生活維持向上倶楽部『扉』」で施設の写真を撮影(上)。施設の担当者に使い方を説明していた(右下)(写真=2点:村田 和聡)

 「いきますよー。はい、にっこり」。11月中旬、横浜市泉区の通所介護施設「生活維持向上倶楽部『扉』」に、介護施設の紹介サイトを運営するベンチャー企業、ウェルモ(福岡市)の田中優加さんの姿があった。

 「デイサービスのお手洗いって普通、何も置いてないですけど、ここはそうじゃないですね」。造花の飾りや空き瓶を置いたにぎやかなトイレに感心しながらデジタル一眼のファインダーをのぞく。「扉」の運営会社、NGUの山出貴宏社長が「介護施設と思われるのではなく、普通に出かける場所としての雰囲気を大事にしています」と説明すると田中さんはうなずきながらシャッターを押していた。

 撮影を終えた田中さんは、パソコンを見ながら職員にウェルモが提供している情報サイト「ミルモネット」の説明を始めた。ウェルモが現在、構築している介護施設情報のプラットフォーム(基盤)だ。

 田中さんは入浴設備やサービスの方針といった施設の特徴を指定のフォーマットで入力していく。この日の田中さんの訪問目的はミルモネット上に「扉」のページを作ることだ。施設の情報をほかの施設と比較しやすくする。

 ミルモネットのユーザーは介護が必要な高齢者の介護計画を立てるケアマネジャー。ケアマネは高齢者の状態や家族の意向を把握しながら、地域のどの施設が適当かを判断し、利用できるように調整もする複雑なスキルが求められる。施設の空きがなければ案内できないし、そもそも施設の特徴を把握していなければ介護計画も立てられない。施設側も日々の運営で多忙なため、情報発信まで手が回らないという難しさを抱えている。

 ウェルモはそこをつなぐプラットフォーマー(基盤提供者)になろうと考えた。横浜市や東京都大田区、福岡市などの自治体と協力し、田中さんのように地域の施設を一軒一軒回る「地域コミュニケーター」と呼ぶ社員を20人配置し、登録施設を広げている。

 ウェルモによると、デイサービスや有料老人ホームなどの施設は全国に約21万5000カ所。現在ミルモネットに登録しているのは3万3500カ所で、2025年までに10万カ所に増やしたいという。

小さな市場でもつくれる

 プラットフォーマーとは、主にインターネットを通じ第三者にサービスの「場」を提供する企業を指す。代表例は「GAFA」と呼ばれる米国のグーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コムだ。SNS(交流サイト)や検索、通販サイトなど幅広いサービスを手掛け、国内ではヤフーや楽天が当てはまる。中国にも「BAT」(バイドゥ、アリババ集団、テンセント)がある。

 米ハーバード経営大学院のデビッド・ヨフィー教授は「技術的な基盤となる『イノベーションプラットフォーム』と取引を仲介する『取引プラットフォーム』の2類型が基本」と分析する。イノベーション型は米マイクロソフトのウィンドウズや米アップルのiOSなどの技術的な基盤、取引型は米ウーバーや楽天などの取引仲介者を指す。

 ただ、GAFAのような規模でなくても、サービスの場を提供し、多くのプレーヤーが集まって多様なビジネスを生む仕組みづくりは可能だ。小さな生態系と言ってもいいだろう。検索エンジンのように莫大な広告収入を生むわけではない。それでも利用者が増えるほど恩恵が増え、市場の中で寡占や一人勝ちの状態を生み出しやすくなる。

日経ビジネス2019年12月2日号 50~54ページより目次