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世界最大の通販サイト、アマゾンで商品を絶賛する「やらせレビュー」が横行している。大勢の消費者を惑わす者の正体を追って中国・深圳の雑居ビルにたどり着いた。不正対策に年間400億円超を投じるアマゾンをあざ笑う首謀者が、ついに全手口を明かした。

やらせレビューに手を染める中国・深圳のネット販売業者のオフィス(左)と倉庫(右)

 IT関連メーカーが集積する中国・深圳。その中心部から10kmほど北の坂田(バンティエン)地区に足を踏み入れた。牛肉や豚肉のおいしそうな匂いを漂わせる飲食店、零細の物流会社、家族経営の商店が混然と立ち並ぶ。

 現地を案内してくれた深圳在住の王宇航氏(仮名)が流暢な日本語で切り出した。「坂田地区には、アマゾンにIT関連製品を出品する、私たちのようなネット販売業者が集結しています」

 王氏とはフェイスブックを通じて知り合った。チャットで取材交渉を重ねること1カ月。現地で初対面した王氏は社交的な20代の若者だった。

 「今から向かう勤務先の同僚たちにはあなたの来訪目的を伝えていません。のちほど真相をすべてお話ししますから、職場では決して余計な詮索をしないようお願いします」

 そう念押しして、路地に建つ雑居ビル内のオフィスに招き入れてくれた。2フロアに分かれて50人ほどが働いている。多少雑然としてはいるが、いかがわしさは感じられない。

 自社開発したワイヤレスイヤホンや携帯型スピーカーなどのIT関連製品を、日本、米国、英国、ドイツ、フランスに輸出し、アマゾンを通じて現地で販売している。各国のアマゾンに開設した「ストア」と呼ばれるオンライン店舗を、現地語を操る従業員が運営していた。日本語を勉強した王氏は、日本向けのストアを任されている。一見したところ何の変哲もない、一般的なネット販売業者である。

 しかし一皮むけば、ここは秘密裏に遂行される捏造の中枢だ。ストア運営者は全員「やらせ」に手を染めている。担当国の協力者を操って、アマゾンで自社商品を絶賛するレビューを量産している。王氏は、日本の消費者向けのやらせレビューを担う首謀者である。

 「私たちだけではありませんよ。この辺りのネット販売業者はどこでもレビューを操作しています」

 王氏はそうささやいた。坂田地区は世界最大の通販サイト、アマゾンに偽のレビューを蔓延させる“汚染源”だった。

日経ビジネス2019年11月25日号 52~57ページより目次