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知多半島道路の大府パーキングエリア。民営化後、施設の売上高は40%伸びた。下左は有料道路の管制棟

 愛知県の知多半島を南北に貫く知多半島道路。その上り車線にある大府パーキングエリア(PA)を訪れると、雨の日の平日にもかかわらず、利用客でにぎわっていた。

 著名建築家の隈研吾氏が設計した木感あふれる建屋には、著名パティシエの辻口博啓氏が手がけるベーカリーと、東京・恵比寿の人気店「賛否両論」で腕を振るう笠原将弘氏の和食店が軒を連ねる。2018年のリニューアル以降、大府PAの売上高は15~17年の平均と比べて40%増加した。

中部国際空港に向かう「優良路線」なども対象に
●民営化された有料道路
毎年度、計画を上回っている
●愛知県有料道路の料金収入の推移
注:‌計画は入札時の公社の計画収入。2016年度は16年10月1日〜17年3月30日、19年度は19年4月1日〜9月30日のデータ

 大府PAのほか、半田インターチェンジ(IC)手前の下り車線にある阿久比PAにも著名シェフがプロデュースしたイタリアンがオープンした。今後は上り車線にもPAを新設、一般道からも利用可能な温浴施設などを完備した道の駅が建てられる。

 このPA改革を進めているのは、知多半島道路や中部国際空港連絡道路など愛知県有料道路8路線を運営している愛知道路コンセッション(ARC)。これらの有料道路はもともと愛知県道路公社が運営していたが、16年にコンセッション方式で30年間の運営権を売却した。落札したのは、前田建設工業を中心とした企業グループである。

 それ以来、愛知県有料道路の料金収入は入札前の公社計画を大きく上回る。18年度の料金収入は174億円と公社の計画より10%ほど多い。19年度の料金収入も9月末までの時点で90億円と公社計画を15%上回っている。

道路コンセッションは日本初

 PA改革など施設開発で増収を図る一方、コスト削減も徹底してきた。

 象徴的なのが社員(公社時代は職員)の数だ。公社時代の15年度は95人の職員で運営していたが、民営化によって道路運営に関わる人員は20人近く減少した。また、公共発注の場合は公平性の観点から広く薄く地元の業者に仕事を回す必要があるが、民間企業は発注先や期間を自由に決めることができる。発注形態が変わったこともコスト削減に寄与した。

 後述するように、完全な経営の自由が実現しているわけではないが、PA改革に見られる増収策と経営効率化によるコスト削減を見るに、コンセッションの効果は確実に出ている。

 愛知県が有料道路の民営化に踏み切ったのは、道路運営の効率化と質の向上を同時に成し遂げるためだ。そして、実現する手法として、運営権の民間売却であるコンセッションに目をつけた。

 民間の資金や創意工夫を活用する仕組みとしてはPFIが既に存在している。ただ、従来のPFIは基本的に建設コストを一定の期間にわたって延べ払いする仕組みで、サービスの改善や売り上げ増に対するインセンティブがさほどない。それに対して、コンセッションであれば、業績改善は運営権を得た事業者の取り分になるため、民間の創意工夫が発揮されやすい。

 もっとも、「(実現まで)4年8カ月もかかった」と大村秀章知事がぼやくように、日本初の有料道路コンセッションは困難を極めた。

 PFIの一手法としてコンセッションが制度化されたのはPFI法が改正された11年のこと。ただ、道路整備特別措置法(特措法)では、有料道路を運営できる主体を都道府県や地方の道路公社に限定しており、民間企業による有料道路の運営は認められていない。

 当初、大村知事は道路特措法の改正を目指したが、日本の高速道路システムの根幹をなす同法の改正には国の抵抗が強く、実現に長い年月がかかるのは確実。そこで、国家戦略特区の枠組みを活用して道路コンセッションを実施することにした。12年のことだ。

 「議会や地元からは特に異論はなかったが、県庁の建設部から懸念の声が出た。『国から様々な圧力が来るかもしれない』と。そんな話があれば戦うと押し返したが」。そう大村知事は振り返る。

 その後も道路を巡る規制の壁にぶつかった。象徴的なのは、事業者の利益をどう確保するかという問題だ。

 有料道路はそもそも事業者が料金収入で利益を得るという前提に立っていない。だが、利益を上げられなければ、運営権の入札に手を上げる民間企業などいない。料金収入による利益を事業者に確保させるべく、国土交通省道路局と激しい議論を繰り広げた。

 そして、最終的に公社が入札時に計画した料金収入のプラスマイナス6%まではARCに帰属するということで落ち着いた。料金収入が公社計画を上回った場合、6%の超過分まではARCの取り分に、それ以上は公社に返す(公社推計を下回った場合、マイナス6%まではARCが負担、それ以上は県が負担)。6%の上限があるものの、“企業努力”による成果を民間企業が得るという面で画期的な取り決めだった。

 その後の結果は冒頭に記した通り。通勤時の割引やPA改革などが奏功して18年度の交通量は前年度比で4.3%増加。公社計画を上回った分に相当する7億5000万円ほどが公社に還元された。民営化以降、台風や大雪などの自然災害が起きたが、道路管理にかかわる問題は起きていない。

 日本初の道路コンセッションに自信を深めた愛知県は新たな計画にコンセッションを積極的に活用している。

日経ビジネス2019年11月4日号 42~51ページより目次