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空港、道路、上下水道などの運営権を民間に売却する「コンセッション」が広がっている。財政悪化に苦しむ官の負担を軽減し、民の知恵で効率化やサービス向上を図る。海外での広がりも見据え企業も動き出すが、乗り越えるべき課題も指摘される。

予算や人手の不足から、修繕が追いつかず、通行禁止の看板を掲げたままというケースも多い(写真=朝日新聞社)
京都府舞鶴市が進める老朽化した橋の撤去で、第1号となった岡安橋

 「財政が厳しいことは知っている。だからといって、なんで私たちが犠牲になるのか」──。市の担当者の説明に住民は猛反発した。小川にかかる全長わずか数mの岡安橋が老朽化で危険になったことを受けて、市が撤去を打ち出した時のことだ。100mばかり離れたところに迂回路となる別の橋もあるが、住民は感情的になるばかり、説得には2年を要した。

 日本海に面した京都府舞鶴市。明治政府によって海軍鎮守府が置かれたのをきっかけに近代化を遂げ、府北部の中心都市として発展してきた。ただ、多くの地方都市と同様に人口減少に頭を悩ませる。今年はついに戦後初めて8万人を割り込んだ。財政悪化で、老朽インフラの更新はおろか、維持するのも困難になりつつある。市では人口減少に合わせて「引き算の都市計画」を進める。橋の撤去はその一環だ。

 市の管理する橋は2014年時点で835カ所あったが、今年3月末までに約30カ所減らした。老朽化が深刻で、迂回路が近くにあるものを撤去対象にしているが、住民の同意を得るのは容易ではない。それでも取り組むのは、「人口減少も財政状況もますます悪化するのに、負担を将来に先送りできない」(舞鶴市の矢谷明也建設部長)という思いからだ。最終的には3割減となる600カ所にまで残す橋を絞り込む。

「5年以内に修繕を」が8万カ所

 舞鶴は日本の縮図だ。国土交通省は今年8月に全国のインフラ老朽化点検の結果を公表した。橋約6万9000、トンネル約4400、歩道橋などの道路付属物約6000の計8万カ所近くが「5年以内の修繕が必要」だと判定された。財政の厳しさを考えると、全てに対応するのは事実上、不可能だろう。

大量のインフラが一斉に更新時期を迎えている
●建設後50年以上経過するインフラの割合(国土交通省調べ)

 そんな中で、どう最大限インフラを維持していくか。一つの道が民間の力の活用だ。インフラを官が丸抱えするのではなく、民間に任せられるものを任せ、公的負担を縮小。浮いた予算を、生活に不可欠なインフラに振り向ける。

 民間活用の手法としてここ数年、普及が進んでいるのが「コンセッション」だ。「民間資金を活用したインフラ整備(PFI)」の一種で、11年の法改正で国内に導入された比較的新しい仕組みである。

 従来のPFIは、民間企業が公共インフラを建設し、運営を担う国や地方自治体から建設資金を回収する仕組みが主流だった。民間企業への支払いは分割で長期間にわたるため、国や自治体は建設費用を得るために借金をする必要がないものの、長期的な財政負担が軽くなるわけではない。

 それに対して、公共施設を運営する権利を民間企業に丸ごと売却するコンセッションであれば、国や自治体は売却益で建設などにかかったコストを回収できる。運営権を買い取った事業体が業績を改善させることも期待できる。

 実際に空港や有料道路、上下水道などで採用する事例が出てきた。コンセッションは老朽インフラの更新費用の捻出にあえぐ我が国にとって処方箋の一つになり得る。活用には何が必要なのか。その現場を見ていこう。

日経ビジネス2019年11月4日号 42~51ページより目次