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 時代が昭和から平成、そして令和に移る過程で大きく変わったことの一つに、起業家が生まれる土壌が形成されたことが挙げられる。幾度かのバブルを繰り返しながらも、シリアルアントレプレナー(連続起業家)が生まれたり、成功した起業家が投資サイドに回ったりする中で、着実にエコシステムが形成されてきたと言えるだろう。

 大企業への就職一辺倒だった時代は終焉(しゅうえん)を迎え、才能あふれる若手人材がスタートアップ業界に流れる現象が起きつつある。その一方、大企業で経験を積んだ人材が起業するケースも増えてきた。老若男女問わず、様々な起業家が増えてきたことも、エコシステムに多様性を与えている。

 日経ビジネス電子版では2019年7月から、こうした起業家たちの実像を1分間の動画で伝える「1分でわかる『起業家たち』のリンカク」を通じて伝えてきた。

 疲弊した社会システムから生まれるひずみや課題に対し、ビジネスチャンスを見いだした25人の起業家たち。次世代を担う起業家たちが提示する論点を見ていこう。

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道州制を議論の俎上に
家入 一真
CAMPFIRE代表取締役 CEO(最高経営責任者)
(写真=藤村 豪)

 何度か起業を経験している身として切に感じるのは、日本は自国の企業を育てていくというグランドデザインが弱いということ。国内企業が取り組んでも規制の壁に阻まれてできなかったことが、海外から参入してくると瞬時にできてしまう。いまだ黒船に弱い。

 中国は強い国内市場で産業を育成し、韓国は早くから海外に活路を見いだした。日本は中途半端な立ち位置でゆでガエルのような状態にも見える。

 だが、見方を変えると日本は日本語という参入障壁で守られている部分も大きい。欧州ほどは米国企業にじゅうりんされていない。中国でもなく韓国でもない、日本ならではの立ち位置を築けるチャンスは必ずある。

 来年の東京オリンピック・パラリンピックが終わった後、景気後退がどのタイミングで来るか分からない。目に見える形で自然災害が拡大しているし、少子高齢化による労働力不足は刻々と進んでいく。さらには、今後カジノを含むIR(統合型リゾート)もできるし、大麻合法化の議論も出てくるかもしれない。日本はこれから混沌とした時代を迎えるだろう。

 だが、私は悲観していない。一時的につらい状況になるかもしれないが、中長期的には楽観視している。中国では一時もてはやされた無人コンビニが縮小を余儀なくされている。中国やインドは統治という観点からも、若者の雇用をこの先も生み続けなければならない。日本はAI(人工知能)やロボットといったテクノロジーの活用が余儀なくされるが、これこそが日本の強みになる。

 日本が取り組むべきは地方の活性化だ。台湾では今年、地方創生元年を迎えており、日本で地方創生に取り組んできた人たちの多くが招かれている。シンガポールや香港と対抗できる日本の都市を数多く生み出すためにも、道州制の議論を俎上(そじょう)に載せてほしい。日本が中央集権的社会からうまく脱却できれば、世界におけるロールモデルとなるチャンスがある。

 「#02:CAMPFIRE家入一真氏/ツラい時に食べるものは?」から

経営美学を評価する社会に
市原 明日香
モデラート代表取締役
(写真=藤村 豪)

 「洋服を自信をもって着てもらう」。顧客が潜在的に抱えている課題を解決したくて、パーソナルスタイリングサービスとオリジナルブランドのビジネスを展開している。事業を始めるに当たって、当初は投資家にはなかなか自分の信念や理念、哲学を理解してもらえず苦労した。当然、投資いただくので最終的には事業拡大を考えなければならない。だが、事業のスケールのみ考えていたら、ここまでの成長は実現しなかった。顧客に届けたいメッセージがあり、顧客に寄り添う姿勢があって、ブランドは形成されていく。

 背景にあるのはロジックだけで物事を考える人が増えてきたということだ。負け筋はロジックで決まっているが、勝ち筋はロジックだけでは決まらない。経営には一種の美学のようなものが大切で、こうした信念をもう少し評価される社会であってほしいと思う。

 今の時代、もうかりそうなものに節操なく手を出し、後からとってつけたようにCSR(企業の社会的責任)活動をしても、消費者には見透かされてしまう。従業員の働きやすさ、もの作りの誠実さなど、ありとあらゆるものが企業としての美学に根付くという一貫性が求められている。

 女性の起業家として感じるのは、女性支援という視点で進められてきた社会改革に変化が起きているということ。制度の有無と関係なく、女性個人が様々な生き方を自由に選択し始めており、後から制度が追いつくという循環が生まれている。結果、女性が発想するものや生み出すものを理解してくれる人が自然に増えているように感じる。

 女性役員比率が取り沙汰されたときもあったが、制度によってげたを履かせるというのは少し実態に合わないのではないか。先進的な人たちは勝手に道を切り開いているのだから。

 「#12:モデラート市原明日香氏/なぜDeNAの南場智子さんを尊敬?」から

日経ビジネス2019年10月21日号 52~57ページより目次