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インドシナ半島を縦横にまたぐ3つの「経済回廊」が胎動する。物流インフラとして整備が進み、域内のサプライチェーンづくりを後押しする。米中貿易摩擦の激化による中国からの工場移転が追い風だ。

 タイとの国境近くにあるミャンマーの町コーカレイ近郊。日用品や食料品を満載したタイからのトラックが車列を作る。目指すはここから約350km西にあるミャンマー最大の都市ヤンゴンだ。

タイ国境からミャンマーのヤンゴンを目指し、東西経済回廊を走るトラック

 トラックが利用するのは、ベトナムからラオス、タイを横断し、ミャンマーに至る「東西経済回廊」と呼ばれる物流動脈だ。インドシナ半島を真横に横切るこの回廊の総距離は約1700km。コーカレイ近郊の道路はその一部をなす。近隣の農家は「昨年に比べて行き交うトラックの台数が目に見えて増えている」と話す。

 ミャンマーの経済成長が、タイからの荷動きを活発にさせている。2011年の民政移管とそれに伴う経済改革で、ミャンマーでは消費が拡大。産業基盤の乏しい自国では需要を賄い切れないため、隣国のタイからの輸入量が増えているのだ。

 チベット高原から中国南部を通り、インドシナ半島を南下して南シナ海に注ぐ、東南アジアで最長を誇るメコン川。その流域で、陸路による越境貿易が活発になってきた。支えるのが、3つの経済回廊だ。冒頭の東西経済回廊に加え、中国南部の都市、昆明からラオスを経てタイの首都バンコクに至る「南北経済回廊」、ベトナム南部の都市ホーチミンからカンボジアやタイを経てミャンマー南部のダウェーに至る「南部経済回廊」がある。

経済成長が続くメコン各国を、3つの経済回廊が縦横に貫く
●経済回廊とメコン5カ国の概要
出所:国際通貨基金(IMF)

 そもそも経済回廊という概念が生まれたのは1990年代に遡る。92年、アジア開発銀行(ADB)が中国を含むメコン6カ国による経済協力の枠組みを提唱し、交通・物流インフラ開発を重点項目に位置づけた。90年代後半にはアジア通貨危機を乗り越える策として道路や鉄道などを国境をまたいで整備し、域内の経済交流を活発にさせる「回廊」のコンセプトが固まり、2001年に各国の協議により3つのルートが決まった。

 日本もODA(政府開発援助)を通じて、域内のインフラ整備を支援してきた経緯がある。ただ、メコン川流域各国の政情不安や経済危機などもあって、その歩みは決して速くはなかった。

日経ビジネス2019年9月23日号 48~52ページより目次