外科医の目や手として働く手術支援ロボットの開発競争が激しさを増している。背景にあるのは、世界市場を席巻する米社製「ダヴィンチ」の特許切れ。米グーグルも参戦する中、一度は敗れた日本勢も巻き返しに動くが、その成否はいかに。

<span class="fontBold">東京医科歯科大学の絹笠祐介教授はコックピット(右)に座って手術する</span>
東京医科歯科大学の絹笠祐介教授はコックピット(右)に座って手術する

 「ついに実用化段階を迎えるのか」。2019年7月末、手術支援ロボット開発に関わる世界中の技術者が色めきたった。引き金は米スタートアップ、バーブ・サージカルが、米大手医療機器メーカーのCTO(最高技術責任者)を新社長に迎え入れたとの発表。注目を集めたのは、そのリリースに盛り込まれた一文だ。

 プロトタイプを前臨床ラボでテストしている──。このスタートアップを設立したのは、米グーグルと米ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)の医療部門だ。グーグルが研究するAI(人工知能)とJ&Jの持つ医療機器の知見を組み合わせて、安全な手術用ロボットの開発を目指している。15年の設立以来、開発状況はベールに包まれていたが、医療機器分野に精通するUBS証券の小池幸弘アナリストは今回明らかになった進捗状況も踏まえて「20年には市場投入されるだろう」とみる。

米国企業が85%を握る
●医療用ロボットの世界シェア
出所:UBS証券

 外科医の目や手として働き、精緻で安全な手術につなげる手術支援ロボットの開発競争が激しくなっている。背景にあるのは、世界市場で7割のシェアを占める米インテュイティブ・サージカルの「ダヴィンチ」の特許切れだ。

 ダヴィンチは米軍の医療技術が民間に移転されたのを受け、1999年に誕生した。3本の手術用アームと1本のカメラ用アームを操作しながら、手術室に置いたコックピットに座った医師が患部を切除したり、縫合したりする。

24年には10兆円市場に

 インテュイティブ社はこうしたダヴィンチの基本的な動きやアームの関節のデザインなどの特許を数百種類押さえているとされ、競合の「後追い」をけん制してきた。その特許がいよいよ期限切れを迎えている。ダヴィンチの特許が壁となって実用的なロボットを開発できなかった競合各社にとってはチャンスが到来したわけだ。今や冒頭のグーグル出資のバーブ社など、世界で約30社がダヴィンチの後を追う。

多様なロボットの開発が世界で相次ぐ
●手術支援ロボットメーカーの一覧
会社名 開発するロボット
インテュイティブ・サージカル 米国 ダヴィンチ
アキュレイ 米国 放射線治療ロボット
ストライカー 米国 小型の整形外科手術用ロボット
ハンセンメディカル 米国 心血管カテーテルロボット
CMRサージカル 英国 小型の単アームロボット
メドトロニック アイルランド 小型の脊椎手術用ロボット
アヴァテラメディカル ドイツ 4本腕のロボット
メディカロイド 日本 多アーム型ロボット
エー・トラクション 日本 手術器具の操作補助ロボット
リバーフィールド 日本 空気圧で動くロボット