近年相次ぐ集中豪雨による被害を食い止めようと、最新テクノロジーを活用する動きが活発化している。AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)を使い、豪雨や土砂災害の発生をいち早く正確に予測する。防災・減災計画の策定や、被害状況の迅速な把握など、予測技術を応用する範囲は広がっている。

「あちこち冠水しているし、河川の氾濫や土砂崩れも怖い。こんな時、地図アプリやカーナビは役に立たないな」「安全に避難するには雨雲レーダーが頼りだ」
2019年8月下旬に九州北部を襲った記録的豪雨。SNS(交流サイト)上に、現地からの緊迫した声が相次いだ。中でも目を引くのは、スマホの天気アプリが備える「雨雲レーダー」にまつわる投稿。雨雲レーダーは、時間や空間を細かく区切って降雨の範囲や降水量を予測してスマホなどに表示する機能だ。
現在、雨雲レーダーの性能で他社をリードしているのは気象情報大手のウェザーニューズだ。具体的には3時間先まで10分単位で、250m四方の雨雲の動きを、スマホの画面にアニメーションのようになめらかに映し出す。ウェザーニューズ以外の天気アプリでも1時間先までは同様の精度で予測できるが、それを超えると1時間単位で、かつ1km四方と予測の“きめ”が粗くなる。
高精度の雨雲レーダーをウェザーニューズが導入したのは18年夏。背景には、全国で増え続ける集中豪雨や局地的豪雨(ゲリラ豪雨)に伴う被害を少しでも減らしたいとの狙いがある。
気象庁によると、1時間の降水量が50mm以上の豪雨の発生回数は18年に350回に達した。1976年から2018年までを3期間に区切った平均値で見ると、発生回数は年々増加している(左グラフ)。1時間に80mm以上の豪雨も18年に20回発生し、1976年以降では10年あたり平均2.6回のペースで増えている。
回数の増加に加えて、被害の度合いもここ数年で一段と深刻化している。前述した九州北部の豪雨では、佐賀県、長崎県、福岡県の3県の住民約88万人に避難指示が出る場面があった。
台風7号および梅雨前線停滞の影響で起こった18年7月の西日本豪雨では、死者が200人を超えた。国土交通省によると、建物や農作物、インフラの被害額は1兆1580億円。統計を取り始めて以来、最悪の被害額となった。
集中豪雨は大量の雨が同じ場所に降り続けるため、河川の急な氾濫、低地での浸水などが短い時間で起こりやすい。事態の急変に備えるため、正確な情報に常にアクセスできるようにしておくのが重要だ。
ウェザーニューズの石橋知博執行役員は、アプリ利用者が雨雲レーダーを使うことで「一人ひとりが水害から逃げ遅れるリスクを減らせる」と話す。「近所の河川にいつ、どのくらいの雨が降り注ぐのかなどピンポイントの降水予測があれば、的確な避難行動につながりやすくなる」(石橋執行役員)。
3時間先まできめ細かい降水予測ができるウェザーニューズの雨雲レーダー。それを支えているのが、AI(人工知能)を利用して雨雲の未来の動きを捉えられる独自のシステムだ。
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