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自らをあえておとしめ注目を集める自虐的なマーケティング手法が広がりを見せている。面白いネタは瞬時に拡散されるSNS全盛時代も追い風になっているようだ。ただ一歩間違えれば「炎上」するリスクも。自虐マーケティングの秘訣を取材した。

志摩スペイン村では若い女性の姿が目立つ。写真映えのするスポットを増やし(右上)、観客とダンサーの距離が近い(右下)点も特徴だ

 「空(す)いているから映え放題」──。今年1月、三重県志摩市のテーマパーク「志摩スペイン村」のホームページに、こんなキャッチフレーズが躍った。

 「施設内がガラガラだから他人が映り込まず、インスタグラム用にいい写真が撮れますよ」という意味。テーマパークであるにもかかわらず自ら集客力の弱さをPRするかのような不思議な広告だが、これが10~20代の若い世代を中心にSNS(交流サイト)上で大受けした。

「逆に行きたい」との声殺到

 掲載して間もなく、ツイッターでは「すがすがしいほどの自虐」「逆に行きたくなるテーマパーク、スペイン村!」といった書き込みが相次ぎ、来場者も上向きに。これに瞬時に反応したのが若い女性で、これまでファミリー層が来場者の9割だった志摩スペイン村の雰囲気が変わりつつある。

 営業企画部課長の柴原励治氏は「ありのままの姿を伝えただけ。自虐を狙ったつもりは全くなかった」と話す。本来の目的は、通常の入園料5300円を2500円に割り引いた学生向けの割引チケット「学割満喫パスポート」の宣伝をすることで、「若い世代にはインスタ映えという言葉が効く」と発想したという。

 2~3月は毎年閑散期でファミリー客を大量に呼び込むのは骨が折れたが、今年は自虐効果で若者たちが多数来園。実数は非公開だが、伊勢志摩サミットが開催された2016年の同期間と比べ約2倍の利用となったという。学割満喫パスポートの販売期間は過ぎたが勢いは今も持続しており、8月下旬、京都市から来た女性(23)は友人と花畑の前で、スマートフォン(スマホ)を取り出し、自撮り写真をパチリ。「SNSを見て来場したが、スペイン村は期待以上に楽しい。来てよかった」と満足げに話す。

 1994年に近畿日本鉄道が三重県志摩郡磯部町(現・志摩市)の協力を得て開発したスペイン村。だが近年は、東海地区における競合施設の増加などもあって苦戦が続いており、収益は絶好調というわけではない。

 2013年には伊勢神宮の式年遷宮、16年にはサミット開催など観光関連の話題は事欠かなかったにもかかわらず、来場者数が伸びない。「地域は盛り上がっていたのに、スペイン村の魅力をうまく伝えられずもどかしかった」と柴原氏は振り返る。

 そんなスペイン村の起死回生となった自虐広告。「もちろん、この施設の魅力はガラガラだけではない。この機会にスペイン村ならではの体験価値を伝え、多くの方に来場してもらえるよう頑張りたい」と柴原氏は意欲を燃やす。

「外国人ゼロ」を逆にアピール

 利点をアピールするのでなく、自らをあえておとしめ注目を集める──。そんな自虐的なマーケティングが広がりを見せている。和歌山県紀美野町も、この一般の宣伝の常識とは真逆を行く手法で成果を上げる自治体の一つだ。

 「関西国際空港にやってくる外国人、年間1200万人。高野山に滞在する外国人、年間7万6000人、それなのに……関空そして高野山から車で1時間、和歌山県紀美野町に訪れる外国人0(ゼロ)」──。誇張が過ぎるようにもみえるが17年にこんなPR動画を流した同町。16年にも電車やスーパー、ゲームセンター、ネイルサロンなどとにかく「何もない」ことを売りにしたPR動画を作成しており、外国人0はこれに続く第2弾の動画だ。

日経ビジネス2019年9月2日号 52~56ページより目次