英語が流暢でプログラムも書ける高度IT人材。みなが羨む人材を先んじて獲得する方法がある。キリロム工科大学。カンボジアの山の中にある大学に今、日本企業が熱い視線を注いでいる。日本人の猪塚武理事長が立ち上げた壮大な構想。目指すはカンボジアのシリコンバレーだ。
今年3月1日。東京・大手町のカブドットコム証券本社で2人のカンボジア人が新入社員として働き始めた。AI(人工知能)を活用したソリューションサービスなどの開発を手掛けるシステム戦略部フィンテック開発グループに配属されたヘン・ワタナさん(24)とレオム・キムチェインさん(22)。彼らはカンボジアにあるキリロム工科大学(KIT)を昨秋、1期生として卒業した22人のうちの2人だ。
彼らはいったい何者なのか。日本語は話せないが、英語は堪能。大学でプログラミングなどの技術を習得済みなのはもちろん、学内ベンチャーでインターンシップをした、つまり実務経験もある高度IT人材だ。
中沢康至・システム戦略部フィンテック開発グループ長は「理論ばかり学んできた日本人の新入社員とはスキルが違う。顧客目線も持っているし、イメージを伝えれば基本設計にすぐに落とし込める」と評価する。プログラムなどを書くソフトエンジニアの世界は、英語が堪能だとアクセス可能な参考情報が飛躍的に増える。だが英語ができプログラミング技術も持つ日本人は少ないため、人手不足感が特に強い。
真面目で“格安”の強力助っ人
カブドットコム証券がこの2人を採用できたのは、KITのスポンサー企業だからだ。スポンサー料は学生1人あたり200万円。同社は400万円をスポンサー料として支払い、この2人の獲得に成功したというわけだ。中沢氏は「大手の人材採用会社を使うと、年収600万円の人を雇うのに200万円近く手数料を取られる。それと同程度のスポンサー料で、はるかに有能な人材を獲得できる。しかもカンボジア人は真面目だ」とその魅力を語る。
いったいKITとはどんな大学なのか。
カンボジアの首都、プノンペンから車に揺られること3時間近く。カンボジア有数のリゾート地として知られるキリロム国立公園内の小高い山の中にKITはある。
●キリロム工科大学の学生数

開校は2014年10月。ワタナさんら1期生は22人。その後、在校生は着実に増え18年末には200人を突破、今年末には300人を超える見通しだ。18年からは日本人も入学、現在は1~2年生に約30人が在籍する。
なぜカンボジアの山の中のKITに日本人学生がいて、そして卒業生が日本企業に就職するのか。
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