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被害は5年連続で350億円超

 子や孫になりすまして電話で金銭を詐取するオレオレ詐欺、ハガキなどで低利融資が受けられると偽る融資保証金詐欺……。電話やインターネット、ハガキなどの通信手段を使って、不特定多数から金銭をだまし取る手口の総称を振り込め詐欺という。被害が急増したのは2003年からだ。警察庁の集計によると、18年には振り込め詐欺の被害総額は356億円となり、5年連続で350億円を上回るなど、撲滅には程遠い状況が続く。

 振り込め詐欺は1990年代から存在していた。それでも警察は当初、摘発に本腰を入れなかったとされる。知能犯罪を取り締まる捜査第二課は汚職や公職選挙法違反といった民主国家体制を揺るがす事件の捜査を優先し、振り込め詐欺の摘発は後手に回った。

 その間に、詐欺のエコシステム(生態系)が完成してしまった。一度仕組みが出来上がると、1カ所が摘発されても、エコシステムが機能している限り、詐欺に必要な資金や道具、ノウハウ、人材が裏社会で容易に調達できる。これが振り込め詐欺が一向に減らない原因になっている。

 米シリコンバレーでベンチャー企業が倒産しても、新たなベンチャー企業が次々と立ち上がり、IT産業が隆盛を保っているのと理屈は同じだ。シリコンバレーでは資金を供給するベンチャーキャピタル、人材を供給する大学、協業相手としてのIT企業などがエコシステムを形成し、起業家を支えている。

 オレオレ詐欺のエコシステムで頂点に君臨するのは、「金主」と呼ばれる出資者だ。半グレの資産家やオレオレ詐欺の元実行犯など、資金力を持つ裏社会の住人が金主である場合が多い。金主は「番頭」と呼ばれるオレオレ詐欺グループの主犯格に、詐欺を始めるのに必要な資金を提供し、だまし取った金の一部を配当として受け取る権利を得る。金主は自ら詐欺には手を染めず、安全な場所で甘い汁を吸う黒幕といえる。

 金主からの資金を元手に、番頭はオレオレ詐欺に必要な人・モノ・情報を調達する。具体的には「名簿屋」から標的となる人の名簿を、「道具屋」から第三者名義の携帯電話や銀行口座を、裏稼業に協力的な不動産会社から「ハコ」と呼ばれる第三者名義の事務所を調達する。電話で言葉巧みに被害者をだます「かけ子」の研修を請け負う業者も存在する。

 番頭は複数のハコを立ち上げて、それぞれのハコに数人のかけ子と、現場責任者の「ハコ長」を1人配置する。

 日本の警察から逃れるために、海外にハコを設ける詐欺グループまで存在する。5月にはタイから振り込め詐欺の電話をかけていた日本人15人が国内に移送・逮捕されたニュースが全国を駆け巡った。

 「オレオレ詐欺グループに戻った私はかけ子となりました」

ネットには詐欺師の罠が潜む

 クーラーの効いた喫茶店で、山口氏の証言は核心へと近づいていった。

 配属先のハコは東京都内にある賃貸マンションの一室だった。そこには自分を含めて3、4人のかけ子がいた。

 出勤時間は毎週日曜日の夕方で、退社は金曜日の昼過ぎだ。6日間にわたって、缶詰め状態の共同生活を送る。「不審な若者が頻繁に出入りしている」と近所に通報されかねないため、途中の外出は厳禁だった。