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吉本興業のお笑い芸人が振り込め詐欺グループのパーティーに参加していた騒動は収まる気配を見せない。芸人側に支払われた多額の謝礼は、グループがだまし取った金額の大きさを物語る。振り込め詐欺の被害額は5年連続で350億円を超える。高齢者を食い物にする、卑劣な集団の「闇」に迫る。

タイから日本に振り込め詐欺の電話をかけていた容疑者が5月、捜査員に囲まれ羽田空港に到着した(写真=朝日新聞社)
オレオレ詐欺は増加の一途だ
●警察が認知した振り込め詐欺の件数
注:警察庁調べ

 タバコの煙がこもる大阪・下町の喫茶店でスマートフォンをいじりながら待つこと10分。

 「はじめまして。山口宗一(仮名)です」

 顔を上げると、笑みを浮かべた若者が立っていた。「ご連絡いただいていた記者の方ですよね。座らせていただきます」と言って、彼は目の前に腰を下ろした。

 この快活で礼儀正しそうな青年が、振り込め詐欺の実行犯だったのか。挨拶をしながら覚えた戸惑いを振り払い、さっそく取材に入ることにした。

 「山口さんは今、何歳ですか」

 「26です。詐欺師を始めたのは16歳だから、ちょうど10年前です」

 生まれ育ちは東京だ。中学生時代に非行に走り、卒業後は建設現場で働きながら、暴走族のメンバーとして活動するようになった。

 「どんなきっかけで詐欺にかかわるようになったの?」と聞いてみた。

 「暴走族のOBにかけられた一言がきっかけです。『荷物の運搬を手伝ってほしい』と言われました」

 「やばそうな仕事だな」と気づいたが、先輩の言葉は絶対だ。そうやって自分を納得させ、引き受けた。

 運搬の当日、指定されたマンションで見知らぬ人物から荷物を受け取った。その瞬間、スーツ姿の男たちに一斉に囲まれた。「警察だ、おとなしくしろ」

 警察署で取り調べを受け、山口氏はだまし取った金を受け取るオレオレ詐欺の「受け子」をやらされていたことを知った。詐欺に気づいた被害者から連絡を受けた警察が、現金授受の現場に受け子が現れるのを待ち構えていた。受け子として活動を始めた初日だったこともあり、山口氏は20日間の勾留後に釈放された。

 これからは真面目に働こう。そう決意したが、勤めていた建設会社への復職はかなわなかった。収入がなくなる一方、暴走族の仲間と遊ぶ時間が増えた。当然、経済的に行き詰まる。

 暴走族のOBから再び「詐欺をやらないか」と、悪魔のささやきがあったときには、もう迷わなかった。

 「やります」

 受け子から昇格が認められ、オレオレ詐欺の最前線に赴くことになった。

日経ビジネス2019年8月12日号 54~58ページより目次