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日本経済の停滞が長期化する一方、第4次ベンチャーブームが到来。IoTやAIといった技術の進化と緩和マネーの増大が起業を後押しした。経済再生の牽引役へ期待は高まるが、一過性の懸念も消えない。

 今年4月17日、経済同友会が開いた記者会見は、大企業の経営者である代表幹事や幹事らが質問に答えるいつもの雰囲気とはかなり違っていた。主役はベンチャー企業の経営者6人。この日は、同友会が初めて迎え入れたベンチャー経営者らのお披露目だったのだ。

 入会したのは、インターネットを介して個人と企業などが仕事を受発注するクラウドソーシングのランサーズや、藻の一種であるミドリムシを使った健康食品を開発・販売するユーグレナなど。同友会は正会員になるには直近3期連続黒字といった条件を設定しているが、従来型の大企業を想定したもので、ベンチャーには満たしにくい内容になっている。

 そこで新たに「ノミネートメンバー」という制度を設け、年間10億円程度の売上高があり、代表幹事らの推薦があれば、利益は問わないとした。狙いはベンチャー創業者を迎えて同友会を活性化すること。ランサーズ社長の秋好陽介は「同友会を起点に日本の働き方を変えていきたい」と胸を張った。

経団連もベンチャーに秋波

 ベンチャーに熱い視線を送るのは同友会だけではない。財界総本山と称される経団連も昨年11月、「純資産額10億円以上」としていた入会規定を「1億円以上」へ大幅に緩和し、フリマアプリ大手のメルカリやアマゾンジャパンなどを会員に呼び込んでいる。

 優秀な若者が起業に向かうなど、日本は今、「第4次ベンチャーブーム」にあるといわれる。厚生労働省がまとめている新規開業率は2013年度ごろから上昇し、未公開企業の「資金調達額」(ベンチャー調査会社、ジャパンベンチャーリサーチまとめ)は、14年から右肩上がりを続けている。18年には3848億円と、5年前の13年に比べ4.6倍に跳ね上がったという。

2010年代に入って開業率が再び上がってきた
●日本企業の開業率と廃業率の推移
出所:厚生労働省「雇用保険事業年報」
(写真=左:共同通信、中:読売新聞/アフロ、右:AP/アフロ)

 「新たなベンチャーが生まれていることに加え、大企業が彼らに投資をしたり、事業の相手として協業する動きが珍しくなくなった」。ベンチャーの動向に詳しい日本総合研究所の上席主任研究員、岩崎薫里はこう指摘する。ビジネスパートナーとして事業に取り組むケースが増え、かつてのようにベンチャーが下請け的な存在になったり、資本力の差で圧倒されるばかりだったりした両者の関係は大きく変化したという。同友会や経団連の“変身”も、そんな状況の一端なのだろう。

 それは1970~73年の第1次ベンチャーブーム、82~86年の第2次ブーム、そして93年から2006年ごろまで続いた第3次ブーム(00年のITバブル崩壊の一時期を除く)とも異なる。

「日本版ユニコーン(企業価値10億ドル以上の未上場企業)」として話題になったメルカリは2018年6月に上場(写真=ロイター/アフロ)

 1次はファナック(1972年設立)や日本電産(73年創業)などが起業し、本格的製造業ベンチャーが登場した最後の時代だった。2次では株式の店頭登録や東証2部の上場基準が緩和され、「上場という目標が立てやすくなった」(日本総研の岩崎)中で、日本ソフトバンク(現・ソフトバンクグループ、81年)、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(83年)などが誕生した。さらに3次では90年代後半からネットの時代に入り、楽天(97年)、サイバーエージェント(98年)などが出てきた。

 そして今の第4次ブーム。ネットの時代に入った3次の延長線上に思われがちだが、底流には日本経済の新たな変化が見える。

日経ビジネス2019年8月5日号 56~61ページより目次