
経済界の論客2人に、日本が再成長する道筋を聞く「目覚めるニッポン」特別対談。「平成は『惨敗の30年』 猛省が次の一歩目」と訴えた前半に続き、後半は企業や組織がどう変わるべきかに力点を置いた。両氏とも変えるべき慣習と攻める領域は残っていると強調した。
(進行役は 本誌編集長 東 昌樹)
■お知らせ
読者の皆さんと一緒に考えるRaiseの新シリーズ「目覚めるニッポン 再成長への一手」がスタートしています。小林氏と三枝氏の2回の対談を基に、「再成長へ、日本の勝機はどうやって見いだす?」について、皆さんのご意見を募集します。皆さんのご意見は誌面に反映していきます。ぜひ、ご参加ください。


1944年東京都生まれ。一橋大学卒、三井石油化学(現三井化学)入社。退社後、ボストン・コンサルティング・グループで国内採用組として初のコンサルタントに。86年から不振企業の再生を担う事業再生の専門家として活動を始める。ミスミグループでは2002年本社社長、08年会長。18年からはシニアチェアマンに就いている。74歳。(写真=的野 弘路)

1946年山梨県生まれ。東京大学大学院修了後、イスラエルのヘブライ大学などを経て、74年三菱化成工業(現三菱ケミカル)入社。96年三菱化学メディア社長、2007年三菱ケミカルホールディングス社長、15年会長。15年から4年間、経済同友会代表幹事を務めた。現在も東芝の社外取締役、日銀参与などを務めている。72歳。(写真=的野 弘路)
現状への危機感を持つことが日本をもう一度強くする出発点になるという点は共有できました。企業は、次なる一手をどう打つべきでしょうか。対談後半は課題の克服方法を議論しましょう。
三枝:ビジネスと組織を変えていく上で重要なのはリーダーです。そして課題克服へのキーワードは「失敗」と「経験の蓄積」だと思っています。失敗を経験させるには、ちょっと危ないことにも近寄らせないといけない。これを意識的にやって、仮にうまくいかなかった場合でも「最高の経験をしたね」と褒めてあげると、人は育つわけです。失敗と経験を褒めるという慣習をまず作らないといけないですね。
日本企業を見る限り、現状ではあまりそういう仕組みになっていませんね。
小林:ひたすらパニッシュ、失敗は責められ続けるという状況ですね(笑)。僕が子会社の社長だった頃、海外での簿外取引で10億円以上の焦げ付きが発生しました。ひたすら責められ続けて、僕自身のボーナスも50万円減らされました。その経験で得た教訓は「悪い情報は簡単に上にあがらない」ということ。透明性がいかに重要かと肌で感じた記憶がよみがえります。
「団子」から変革は起き得ない
三枝:組織を変えていくためにどうすればよいか。意志を持つリーダーが現れ、そのリーダーが既存の社内意識と違うことを言う。そして、その考え方を理解する人が増え、組織が徐々に変わっていく。これが自然な流れです。
小林さんが横並び主義がはびこる昨今の状況を懸念されていたように、企業であれ、国であれ、今の日本は似たような人の常識に染まった「団子状態」にあります。この状況から集団が変わっていくことを期待するのはナンセンスです。そんなことは起きない。そもそも、ある集団・組織の能力を平均的に上げていく発想はダメなんです。つまるところ、変革は1人が起こすもので、まずその1人を引っ張り上げることから始まります。改革思考を持つ人間をトップに生み出した会社が変わり、それができない会社はいつまでも団子状態のままです。
変革を起こせる人材を見つけ出すのは、とても難しい作業です。
三枝:「人材は辺境から来る」と言います。例えば、若い時に海外の価値観に触れ、さらに40代の前半ぐらいまでに、再び海外赴任で、事業責任を負わせるといいですね。外で鍛えられる経験は貴重で、人事制度のカリキュラムにも組み込むべきです。特に赤字の子会社で経営経験を積むと、力が磨かれると思います。
小林:海外子会社で全体を見る経験はできれば30代、遅くても40代までにぜひやるべきです。そもそも「秀才」「紳士」「頭のいいやつ」は、意外とダメ。企業内の教育システムにも問題がありますが、会社に入ってどこかに配属され、ポストに就いた段階で満足し、落ち着いてしまう例が目立ちます。
三枝:企業の人事部は「見ないフリ」をしているだけで、経営者として将来有望な人材は本来、30歳くらいで見えてくるものです。反骨精神があるか、先行きへのリスクを持った行動ができるか、といったことは分かるはずなのです。一方で、会社としてはあまり早く引っ張り上げない方が都合が良い。全員に「もっと偉くなれる」と思ってもらいたいわけで、ここでも「全体主義」が働きます。ただ、そんなことを続けていると本当に会社が倒れてしまうので、さすがに日本の組織も変わり始めている気はします。
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