第2次安倍政権が発足し、「3本の矢」を掲げたアベノミクスがスタート。日銀がぶち上げた大規模金融緩和によって一定の成果を上げた。だが、成長戦略は思うように進まず、緩和長期化の弊害も指摘される。
「戦力の逐次投入をせずに、現時点で必要な政策をすべて講じた」
2013年4月4日。2週間ほど前に就任したばかりの日銀総裁、黒田東彦が金融政策の方針を決める政策決定会合後に開いた記者会見を受け、市場は仰天した。政策目標を金利から通貨供給量に切り替えて、市場からの国債の買い入れを大幅に増やし、ETF(上場投資信託)などのリスク資産も買い増すことを明らかにしたからだ。

具体的には、国債の買い入れ量をそれまでの年間20兆円増から50兆円増(ともに前年比)と大幅に拡大する。対象も従来の残存期間3年以下の国債から長いものに広げて同期間を約7年に延ばす。ETFは前年比2倍の年間1兆円増とする。そんな大胆な金融緩和で、市場に供給するお金の量であるマネタリーベースを2年間で倍増するという。
通貨供給量を増やすことで、金利低下を促して企業が借り入れで投資をしやすくする。同時に消費者物価も2年程度で前年比2%の上昇率を目指す。そのための大規模緩和は、新総裁の名前から「黒田バズーカ」なる異名で語られることとなる。
「これまでとは次元が違う」
「ここまで強いコミットメントをするとは……」
日本生命保険の運用部門でアナリスト、ファンドマネジャーなどを長く務めた現・理事で財務企画部長の岡本慎一は、予想を超える黒田の大胆な緩和に、運用見直しの対策を考え始めた。
そんな市場関係者の驚きは、株価と為替に映し出された。自民党総裁の安倍晋三が政権復帰を果たす直前の12年11月ごろから上昇を始めていた日経平均株価は、半年間で約74%も急騰し、13年5月半ばには1万5000円を突破。12年7月に1ドル=77円台を記録した為替相場は13年5月10日には100円台へと大きく円安に振れた。
12年12月に始まり、戦後最長が見込まれる今回の景気拡大局面は第2次安倍政権の足どりと重なる。2010年代の日本経済は、その安倍の経済政策、いわゆる「アベノミクス」によって動かされ続けてきたといえる。
安倍が政権発足時から打ち出したアベノミクスの柱は、「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「民間投資を喚起する成長戦略」。「これまでとは次元が違う」と黒田が称した金融緩和はそのひとつ。内外の投資家がとりわけ強い関心を寄せた。

「日本株を買うべき10の理由」。13年秋、大手運用会社、DIAMアセットマネジメント(現・アセットマネジメントone)のエグゼクティブポートフォリオマネジャーだった武内邦信は、アベノミクスで日本はデフレ脱却の可能性があるとする資料を抱えて欧州や中東の投資家を営業に回った。訪問先でぶつけられたのは、「日本は変わるのではないか」というバブル崩壊後にはほとんど耳にしたことない言葉だった。
黒田の前任で08年4月から5年間、日銀総裁を務めた白川方明は、自民党議員や経済学者の一部から批判にさらされた。白川も任期中に国債買い入れを約20兆円、ETF買い入れも5000億円などとする緩和策を打ってはいた。だが、批判派は「規模が小さく、効果は乏しい」と注文をつけ続けた。
大規模緩和の物価押し上げ効果には様々な意見がある。しかし、米連邦準備理事会(FRB)もリーマンショック後、「非伝統的金融政策」とされた大規模量的緩和の導入に踏み切っており、日本は出遅れているという声が日増しに強くなっていた。
安倍は首相に返り咲いてすぐの13年1月、約10兆3000億円もの緊急経済対策を打ち出した。さらに大規模な金融緩和に前向きな黒田へ日銀総裁が交代したことで、外国人投資家はデフレ脱却、成長路線への転換を期待したのだ。
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