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安倍政権の掲げる「地方創生」やふるさと納税の返礼品ブームで過熱する特産品競争。“外貨”を獲得して地域を潤す切り札として注目を浴びるが、失敗例も少なくない。短期的利益の追求ではなく、地域のブランド力向上につながる息の長い取り組みが不可欠だ。

自治体のアンテナショップとしては後発の銀座NAGANOだが、テストマーケティングの場に特化した店づくりをしている(写真=北山 宏一)

「信州」の二文字を冠する味噌やソバ、産地の村の名前がついた野沢菜漬けなど、いくつかの地域ブランドを確立している長野県。特産のリンゴやブドウを使ったジャムやシードル、ワインなどの生産も盛んだ。

 そんな特産品づくりでは全国でも先進的な長野県にあっても、思わず首をひねってしまう商品が散見される。地元のスイカで香りを付けた焼酎や、雑穀で作った味噌、ジビエを使ったシリアル食品──。素人が見ても消費者の食指が動きそうもないように思える商品がどうして生まれてしまうのか。

 理由の一つは、商品開発力がなく、生産者側の都合だけで開発に取り組むからだ。

 「名産のスイカの活用の幅を広げたい」「他の農作物と比べて手間のかからない雑穀の栽培を進めて遊休農地を解消したい」「シカやイノシシを使うことで鳥獣害を減らしたい」──。

 いずれも日本の農業が取り組むべきテーマとしては真っ当で、商品化を通じて解決をしたいという思いは理解できる。しかし、売れる商品を生み出すのは一筋縄ではいかない。

 中には、国からの補助金を受けて、加工施設を先に建設し、そこから何を作るか考え始めた事例もあるという。商品開発より先に設備投資。行き過ぎた生産者都合を象徴するケースだ。

 こうした問題を受けて、長野県工業技術総合センターの食品技術部門(長野市)は2015年から企業だけではなく、商品開発に悩む農家にも門戸を拡大。生産から加工、販売までを手掛ける「6次産業化」の支援に乗り出した。

 これまでは企業が開発した商品を評価・分析するのがセンターの役割だったが、国の地方創生の交付金を活用して、食材を乾燥させる機械や真空パック詰めにする装置、日本酒やワインの醸造設備などを導入。特産品開発に向けた実験施設の顔も持つようになった。

 その結果、長野県千曲市の主婦有志による、名産のあんずのシロップ漬けやジャム、新潟県境に位置する鍋倉山のブナの原生林から採った酵母を使ったかりんとうといった特産品が誕生。食品技術部門長の蟻川幸彦氏によれば、玉ねぎのリキュールや柿のブランデーなど、試験的に作ってみたものの風味がいまいちで開発を断念するケースも出ているといい、売れない特産品が生まれるのを未然に食い止めることにもつながっている。