日本各地で急増する外国人観光客によるトラブルが相次いでいる。訪日客は2018年に3000万人を突破。政府は30年までに倍増を目指すが、「観光公害」を克服できなければ、絵に描いた餅になりかねない。
「祇園を訪れる外国人が急速に増えているが、我々にとっては百害あって一利なしだ」
京都の花街文化の中心地である祇園。そのメインストリートの「花見小路」は今、世界中から訪れる外国人観光客で連日ごった返している。飲食店など約260軒が加入する祇園町南側地区協議会の太田磯一幹事は、伝統に裏打ちされた落ち着いた街のたたずまいが崩れていくことに、憤りを隠さない。
「祇園をテーマパークか何かと勘違いしている外国人が多く、建物に勝手に上がり込んできたり、舞妓を取り囲んだりする悪質なマナー違反が横行している。大挙して押し寄せるが、写真撮影に夢中で、店を利用する人はほとんどいない。常連のお客様が『落ち着いた祇園の雰囲気がすっかり壊れてしまった』と言って離れてしまい、営業に支障を来している店も多い」
襦袢を引き裂かれた芸妓
京都市の外国人宿泊客数は2017年に過去最高の353万人に達し、14年に比べ倍増した。それに伴い、地域の暮らしが脅かされ、観光地としての魅力も損なわれる「観光公害」(下の表)が深刻化している。
●観光公害の例

18年には訪日客が3000万人を突破。5年で3倍に急増した。「観光立国」を目指す安倍政権は、20年に4000万人、30年までに6000万人に引き上げる目標を掲げる。だが、「今の2倍の外国人が来るなんて想像しただけでもゾッとする」(太田幹事)というのが、祇園で商売を営む人たちの偽らざる本音だ。
同協議会は迷惑行為の実態を調べるため、18年に会員を対象にアンケートを実施。「軒先の灯籠や提灯を壊す」「お客様や芸舞妓が乗ったタクシーを取り囲んで撮影する」「犬矢来にもたれて路上に座り込む」「店先で子供に排せつさせる」など、切実な被害報告が多数寄せられた。
さらにここ数年、外国人観光客によって、写真撮影を拒んだ芸妓が腕をつかまれて襦袢を引き裂かれる事件や、仕事帰りに自宅まであとをつけられるといった被害が発生。「問題を放置すれば、被害を恐れて芸舞妓の担い手がいなくなる恐れすらある」(太田幹事)
協議会は3月27日、実態調査の結果を携えて京都市の門川大作市長を訪ね、抜本的な対策を求めた。「我々の我慢も限界に達しております」。提出した要望書には、被害に耐え続けてきた祇園の苦悩がつづられていた。
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