医師の長時間労働問題が改善されず、過労を苦に自死を選ぶ人も少なくない。高齢化で患者が増えればしわ寄せは医師に集まるが、法規制などは一向に進まないのが現状だ。放置すれば医療の崩壊を招くとも指摘されており、一刻も早い対策が求められている。

「もう医療現場は限界にきています。この惨状を世の中に伝えて、我々を助けてください」。今年4月、医師のA氏から記者のもとに悲痛なメールが寄せられた。自分が勤める病院では医師の労働環境が悪化しており、過労から医療ミスも発生しているという。病院での業務が終わった後の深夜1時過ぎに時間を確保してもらい、取材に向かった。
経営難が医師にしわ寄せ
A氏は30代半ばの外科医で、神奈川県のある病院に勤めている。残業が180時間を超える月もあり、「労働環境はどんどん過酷になっている」と話す。
●医師の1カ月あたりの平均残業時間

出所:日経メディカルオンライン
以前から楽な仕事ではなかったが、一段と労働強化が進んだのは数年前に経営方針が変わってから。それまで大学病院に紹介していた重症の患者も引き受けて治療することになった。病院の経営はかねて赤字続きの状況で、収益を改善するための方針転換だった。
ところが、患者の数が増えたにもかかわらず、診療にあたる医師は人件費を抑えるためほとんど補充されなかったという。当然、医師の負担は急増。より良い労働環境を求めて離職者が相次ぎ、残された医師に業務が集中するようになった。「重篤な患者も担当する中で責任を感じ、とても辞められなかった」とA氏は振り返る。同病院では特に外科医が少なく、今は経験の浅い医師も含めて数人で月50件以上の手術をこなしている状況。「業務量は以前の約2倍に膨らんだ」(A氏)という。
患者の体調が急変すれば、深夜であっても対応しなければならない。そんな生活が続く中、A氏は重大な医療ミスを起こす。医療器具を患者の体内に置き忘れたまま手術を終えてしまったのだ。「睡眠不足でなければ、絶対にしないような医療ミスだった」(A氏)。
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