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都内の大手私鉄で、追加運賃を払えば確実に着席できるサービスが出そろった。コーヒー1杯分の価格で快適な通勤が約束されるだけに、各社とも売れ行きは好調だ。利便性をアピールして沿線価値を引き上げたい意向だが、思惑通りになるだろうか。

(写真=小田急、京王、東武、JR東日本、京成、京急は各社提供)

 5月8日の午後8時半、東京急行電鉄大井町線の始発駅・大井町駅(東京・品川)。家路に向かう会社員がホームを行き交うなか、田園都市線に乗り入れる長津田(横浜市)行きの直通列車が到着した。一見するといつもの大井町線と変わりはないが、中ほどに1両だけ鮮やかなオレンジ色の車両が交じる。通常運賃に400円を追加してチケットを購入すれば確実に座れる「Qシート」を導入した車両だ。

 インターネットでチケットを購入して乗ってみた。進行方向と平行にロングシートを配置したほかの車両とは異なり、前向きの2人掛けシートが並んでいる。着席すると利用者が横並びに詰めて座るシートと比べて、明らかに余裕がある。各席にはドリンクホルダーがあり、缶ビールで喉を潤すサラリーマンの姿も見られた。

TJライナーやQシートでは回転式の座席を使用しており、ロングシートとしても活用できる(写真はTJライナー)

 「本日のQシートは満席です」という社内アナウンスが響く中、列車は出発した。約30分後、前後の車両のように混み合うこともないまま、約20km離れた途中停車駅のたまプラーザ駅(横浜市)へ到着した。乗車していた仕事帰りの男性会社員(48)は「週に1度ほど、この車両を利用している。予約さえ取れれば確実に座れるので、いい取り組みだと思う」と話した。

各座席にコンセントを設置し、スマートフォンなどの充電が可能な車両も(写真は京王ライナー)

 首都圏や関西圏の鉄道で近年、Qシートのような有料着席サービスが広がっている。上の図にあるように、首都圏では都心に乗り入れるほとんどの鉄道会社が運用済み。いずれも通常の乗車料金に300~500円ほどを上乗せすれば確実に指定席に座れる。各席にコンセントや車内Wi-Fiを設けているものや、車内の静穏性を保つため、床に防音材を仕込んでいる車両もある。「1週間前になるとほとんどが売り切れている」(小田急電鉄)、「乗車率はおおむね9割ほど」(東武鉄道)と各社は話しており、ビジネスマンを中心に人気が高まっている。

日経ビジネス2019年6月3日号 58~62ページより目次