スリランカで連続爆破テロが起き、日本人に犠牲が出るなど、世界的に不穏な空気が漂う。何が起きるか分からない時代、企業の強い味方になるのが民間の諜報機関だ。企業幹部の身辺警護から、腐敗や産業スパイの追及まで裏仕事を一手に引き受けてくれる。

<span class="fontBold">近接戦闘の第一人者、エリ・レフラ氏(左から2番目)は、身辺警護や諜報を手掛けるT.D.I.を経営する。その他の写真はイメージ</span>(写真=左端:shutterstock、右から2番目:CasarsaGuru/Getty Images、右端:tiero/Getty Images)
近接戦闘の第一人者、エリ・レフラ氏(左から2番目)は、身辺警護や諜報を手掛けるT.D.I.を経営する。その他の写真はイメージ(写真=左端:shutterstock、右から2番目:CasarsaGuru/Getty Images、右端:tiero/Getty Images)

 その屈強な男は秘匿性の高い仕事柄、普段は自身のイニシャルである「ミスターE.L.」とだけ名乗っている。

 「ぜひ誌面で本名を書かせていただきたい」

 記者がそう要望すると、男は快く受け入れてくれた。

 「分かった、今回は許可しよう」

 エリ・レフラ氏、58歳。イスラエル軍特殊部隊の出身で、柔術やボクシングを組み合わせた独自の格闘術「ハシタ」の創始者としても知られる。「つい先日、ナイジェリアで大規模な軍事訓練を終えたばかりだ。現地の兵士と警察官500人を鍛え上げた」と話す。

 現在は、地中海の白い砂浜が続く、故国イスラエルの観光都市ネタニヤに身を落ち着かせる。2年前にこの地で保安関連サービスを手掛けるT.D.I.を設立した。

 サービス内容は極めて特殊だ。経営幹部の身辺警護、諜報の手法を駆使した企業や市場の調査、誘拐された社員の解放交渉などである。企業が表立って手を下すことのできない危ない任務や裏仕事を一手に引き受ける。

 こうした事業領域で活動する企業は「民間諜報機関」や「危機管理コンサルティング会社」などと呼ばれ、英米を中心に発展してきた。英特殊空挺部隊(SAS)をはじめとする特殊部隊や、英秘密情報部(MI6)、米中央情報局(CIA)など諜報機関の出身者が、現役時代に培った技能を企業のために惜しげもなく発揮してくれる。

 イスラエルでもモサドなどの諜報機関や、サエレット・マトカルなどの特殊部隊が有名だ。レフラ氏はT.D.I.を立ち上げるにあたって、イスラエル国内で「これぞ」と思える猛者を90人ほどそろえた。

 各国に協力者も多数配置している。「現地にT.D.I.のスタッフがいなくても、緊急の場合は地元の協力者を使って最短で1時間で作戦を始められる」(レフラ氏)という。

 T.D.I.によれば、米フェイスブック、独シーメンス、韓国の起亜自動車、インドのタタ・グループなど世界的な企業が顧客に名を連ねる。

 外国政府向けには戦闘や諜報のトレーニングも施している。ナイジェリアはそのうちの一国というわけだ。

 4月21日にスリランカで連続爆破テロが発生するなど、世界は不穏な空気で包まれている。レフラ氏は「日本企業が安心して海外で活動できるよう手助けしたい」と語る。T.D.I.を中心に、世界を股に掛ける民間諜報機関の実相を見ていこう。

<span class="fontBold">スリランカ最大の都市コロンボで教会を封鎖する治安当局者。4月21日に教会を含む8カ所で連続爆破テロが発生し、日本人1人を含む約360人が死亡した。海外展開する企業にとってテロ対策が急務となっている</span>(写真=AFP/アフロ)
スリランカ最大の都市コロンボで教会を封鎖する治安当局者。4月21日に教会を含む8カ所で連続爆破テロが発生し、日本人1人を含む約360人が死亡した。海外展開する企業にとってテロ対策が急務となっている(写真=AFP/アフロ)

次ページ 元諜報員が企業を“身辺調査”